ダニエルは不機嫌な様子だった。エリックは近くにいる男を見て公爵家の人間と察しがつくと、マリーと同じ作り笑いで会話も棒読みになっていた。
「マリオット、マ、マリーは元気にしているか?」
「うん、お姉ちゃんは元気だよ」
二人が見つめ合うのが気に入らず、割り込むようにしてダニエルは聞いた。
「マリオット、遺体をみていた、そいつは何者だ?」
「えっと、医学生です」
「初めまして、僕はエリック・ド・スタンモイユです。医学学校の3年生です」
「スタンモイユとは、父君はジャック・ド・スタンモイユではないか?」
「はい、父をご存じですか?」
「存じるも何も、王の専属医ではないか」
「はい、そうです」
「では、父君と同じく優秀な腕を持っているのだろう」
「父とは違います。僕は研究者になりたいので、腕がいいかどうかは・・・」
「なら、何故、この遺体をみていた」
「何だかおかしいんです。血の気がない」
「血の気がない?」
「調べてみないと分からないのですが、血が抜き取られているのではないかと思われます。司法解剖してみないと分からないので、何とも言えませんが」
「では、捜査に協力願いたい」
「えっ、何故?」
「私は王から特別捜査隊の任務を受けた隊長だ。若い女性が行方不明になっている。その事件にこの女性も関りがあるのではないかと推測している。よって遺体の解剖に協力を願いたい」
「でも僕は学生だし・・・」
「エリックお願い協力して」
マリーはキラキラした目で言うのだった。エリックはマリーに弱い。ましてやこんなにも可愛いのだから子供の姿でもドキドキするのだ。ただマリーを見詰めているだけで心拍数が早いと感じているのだ。大勢の人に囲まれていても他の者は目に入らないありさまだ。だがダニエルが話しかけてきたので我に返った。
「私が王と学校に掛け合って許可を貰おう」
「じゃあ、マリオットも協力するのなら、やってもいいよ」
「マリオットか・・・。仕方がない。何とかする」
「じゃあ、協力する」
条件にマリーを協力させることで、いつでも会えるという期待をした。これからは理由をつけてマリーに会おうと思っている。エリックの下心は幼稚で、マリーをこのまま連れて帰る想像していた。想像しているだけでも幸せな気持ちになるのだ。
思い返せば部屋からいきなりマリーがいなくなった時の絶望感は辛すぎた。これからは色々な口実を考えて、会うつもりでいた。マリーに会う喜びだけが、明日への活力になるのだ。その重すぎる愛情は、エリックのことを煩わしいとマリーが思うのも無理はない。
マリーはといえば、遺体の顔が見えた時に、見覚えのある女性だと気づいた様子だった。

