ブルークレールのソワレ ー甘いお菓子と公爵様の甘い溺愛ー



 馬車のある所は敷地内だが、思ったより遠くに位置していた。歩くだけでも結構な運動量だ。息を切らせながら、馬車の有りかをみつけて、大厩舎の中をゆっくり入って行った。

辺りに5台の馬車があった。多いのか少ないのか分からない。奥には馭者がいる部屋があるので、出入りしている者にみつからないように、隠れながら馬車の止まっている所にいった。厩舎の馬がいる馬房は御者たちよりも奥にあった。

その建物の外側には外出するための馬車の準備がされていた。クリーム色の馬車だ。あれはこの屋敷に来た時に、見かけた物と同じだった。やはり紋章は母親を乗せていった物と同じだった。

そこで黒い馬車を見つけたいと焦って探した。しかし中にある5台の馬車を見回したが、黒い色はなかった。代わりに黒に近い紺色の馬車を見つけ内側も確認したが、あの時の馬車よりも内装が豪華だった。

 母親のことを思いながら、手掛かりがないか探しまわった。探せば探す程、何も見つからず絶望感が心の中を漂う。
だがマリーは諦めなかった。

この建物の中は6台の馬車を所有していたものの、その割にはスペースが空いている。まだ2~3台は入りそうだ。きっと早朝に外出しているか、修理に出しているのだろうと考えた。

よって黒い馬車の有る可能性は消えていない。そう考えごとをしていたせいで、警戒心は薄れていた。すると大きな声が背中から聞こえてきた。

「何をしている」

驚いて振り向くとダニエルが立っていた。少し険しい顔をしている。もしかしてこんな所にいて、怒られるのではないかと恐る恐るダニエルの前に出て行った。

「ごめんなさい。遊んでいたら、ここが見たくなって入った。馬も見てみたい」
「少年、危ないだろう。何も知らずに馬車を出したら、ひかれるかもしれない。見たかったら私に言え」
「はい。もう1人では入らないよ」
「分かったら、よろしい」

ダニエルはマリーを抱きかかえて、馬房へ連れて行った。馬房は一頭一頭の部屋があり大きさは4メートル四方で高さ3メートルはある。入口は棒で塞いでいて、明るく風通しが良く、床は藁が敷かれていた。10室以上も連なっていて、中央にある1室の白馬の前に立った。

マリーは大きな馬を、こんなに近くで見たことが無かったので、圧倒されて怖かった。馬の頭を撫でるダニエルが優しい瞳をしていた。抱きかかえられているので、美しい顔が近くで見える。思わず見惚れてしまうのだった。馬を見ないでダニエルを見ているのに気付いてマリーに声を掛けた。

「ほら、馬だぞ。見たかったんだろう」
「うん、大きいね」
「さあ、触ってもいいぞ」
「いいよ。ちょっと怖い」
「大丈夫だ。ほら」

マリーの手を握って一緒に撫でてくれた。間近で見るとつぶらな瞳は可愛かった。二人は顔を見合わせて笑った。ダニエルに笑いかけられた笑顔の美しさは再度、見惚れてしまうのだった。またしても思考回路、停止になった