ブルークレールのソワレ ー甘いお菓子と公爵様の甘い溺愛ー



マリーは一時、放心状態になっていたことにびっくりしていた。我に返って一言、呟いた。。

「何、今の、エリックとは全然、違う人種だ。」

自分の心なのだが、思ってもいないときめきに驚いている。ダニエルと同じ年のエリックには思ったことの無い感情が、芽生えるのが予想もつかないのだ。部屋から出て間がないのに頭の中は、ダニエルのことでいっぱいだ。無意識にまた、心の声が漏れていた。

「雲泥の差だ。エリックは子供でダニエルの足元にも及ばない。」

エリックが可哀そうなくらいの発言だが、マリーには余程、ダニエルが魅力的に見えたらしい。今までに貴族との関りが少ないせいで、品がありスマートな振る舞いに心を惹かれるのだ。

マリーも年頃で男性を意識し始める。自然に湧いてくる思いであって、エリックが悪い訳ではない。周りに若い男性が、少なかったせいで免疫力が無いのだ。

ほんの少し積極的な場面があれば、ダニエル程の美形に迫られたことで放心状態になる。思考回路が一時停止してしまい、どうして良いか分からない状態だ。

他の男性なら危ない目に合うところだ。ダニエルだからマリーを大切に思ってくれる。危なっかしいマリーでも、下心を押さえて許してくれるまで待つことにしているのだ。

いつものダニエルでは考えられないことだ。どんな女性をダーゲットにしても一発で落とし自分の者にしてしまう。だが、マリーだけは違うのだ。割れ物を扱うように大切にしたいのだ。それ程、ダニエルにとってマリーは特別な存在と考えていた。そんな心をマリーは知らないでいる。
 マリーは大きく首を振って思い出したように言った。

「だめだ。よく考えれば。ママを攫った黒幕かも知れない」

そう呟くと母親のことを考えた。明日は母親を探さないといけないという衝動が、焦りと共に押し寄せてくる。早く菓子作りを終わらせて、明日のために休みたい。今までダニエルがいたことが、どこかに置き去り明日のことを考えた。男性への免疫力が無いせいで、気が付かないからこそ、恋心という感情も抑えられる。

マリーは素早く菓子作りを始めた。三種類の菓子を魔法でも使ったかと思うぐらい早く美しく作り上げた。後は明日、皿に盛り仕上げのだ。
部屋に入るとベットに倒れるように沈んでいったのは、夜明け前だ。まだ日は登っていない。大人のマリーは気切するように意識を失い眠りについた。


気が付くと、まだ暗い。父親の形見の懐中時計を出してみたら、夜は開けて時計は6時を過ぎていた。

「しまった。5時には起きたかったのに」

地下だったせいで薄明かりも部屋には入ってこない。時間の感覚が分からなかったのだ。慌てて子供用の服に着替えて、マリーの厨房へ急いだ。

厨房では昨日のうちに用意していた菓子を盛りつければいいだけだった。皮を切っていたフルーツを出してヨーグルトに刻んで入れた。上の方にはパフェのように細工していたフルーツをのせて大きな厨房へ持っていった。

そこにはアマンダがいた。アマンダは朝食の準備で大忙しだった。盛られた皿を美しい飾りのついたワゴンに乗せていた。それを貴族たちが食事をする部屋に持っていくのだ。

「あ、寝坊したでしょ。髪の毛に寝癖が付いてるよ」
「ごめん、アマ。お姉ちゃんにたたき起こされた。厨房へ運ぶのが僕の仕事だから、遅れたかな?」
「大丈夫。ギリギリセーフよ」
「良かった。朝はヨーグルトで昼は焼き菓子、夜はクリームのケーキだ。後で全部持ってくるよ。アマのお菓子も用意している。昼に渡すよ。もし部屋にいなかったら、テーブルの上に袋に包んで置いておくから、勝手に持っていって」
「うん、分かった。旦那様たちの朝食が終わったら、マリオの朝食を部屋に持っていくね」
「うん、ありがとう」

朝のデザートを渡し、忙しさが収まるまで待って、昼と夜のデザートを大きな厨房へ運んだ。
焼き菓子は余分に焼いたので、味見と挨拶がてら皆に渡した。アマンダだけは皆より多めに袋に入れラッピングした。昼に持って行ってもらうつもりで、マリーの部屋のテーブルに置いていた。

 そしてアマンダが置いてくれていた朝食を急いで食べた。今からこの屋敷で母親をみつけるための捜索を始める。まず、馬車のある所から始めよう。もう一度、紋章が間違いないか確認するためだ。そう思うとマリーは子供の姿で、まるで遊びに出かける振りをして部屋を出た。怪しまれないよう辺りを見回しながら外へ向かった。