琉に案内されたのは、街角にひっそりと佇む小さなカフェだった。
外観は古びているのに、店内は温かな灯りに包まれ、木の香りが漂っていた。

「ここ、俺のお気に入りで。バンド仲間にも秘密にしてるんですよ。」
琉は慣れた様子でドアを開け、先に澪を促した。

澪は一歩足を踏み入れながら、心の中で「秘密」を共有してもらったような気がして胸が熱くなる。
二人で窓際の席に座ると、店員がメニューを持ってきた。

琉が澪に話す。
「おすすめはブレンド。苦いけど、後味が柔らかくて俺好みなんですよ。」
「……あ、私もいつもブラックなんです。苦いけど、落ち着くから。」
「へえ、意外っすね。見た目は甘いの好きそうなのに」
琉は楽しそうに目を細めた。
「子どもたちと接してると、甘さよりも“切り替え”のほうが必要なんです。だからブラックの方が合ってるのかもしれません。」
「子どもたち?」
「……あ、私、保育士なんです」
一瞬の沈黙のあと、琉の表情が驚きに変わった。
「マジで? あのちっちゃい怪獣たちを毎日相手にしてるんすか?」
澪は思わず吹き出した。
「怪獣って……まあ、元気いっぱいですけど」
琉が続ける。
「あのちっちゃい怪獣たちの無邪気な姿が可愛いっすよね。」
澪「はい...!可愛いです!でももう保育士辞めようかなって思ってます。」
琉「そっか。体力か?それとも人間関係?」
澪「両方です。」
琉「そうなんですね...。」
澪「あ、ネガティブになってしまって、すみません!」
琉「全然いいですよ。俺も元はネガティブだし。君の気持ちも分かるから。ところで君の名前聞いてなかったですね。名前は?」
澪「澪と言います。琉さんは本名ですか?」
琉「ああ、本名です。」
琉「澪さん、いい名前ですね。」
澪「あ、ありがとうございます...!(推しに私の名前を褒められた!?やばいやばい!!あ〜この後どうしよう...!というか、このままここに居ていいのかな??)」