ライブから数週間。
琉は新曲がファンから想像以上に支持され、忙しい日々を送っていた。
一方、澪もプログラミング学習に没頭し、最初の簡単なアプリを動かせるまでになっていた。

ある休日、二人はカフェで再び顔を合わせていた。
窓際の席に座ると、澪がノートPCを取り出す。

澪「ねえ、見てほしいんですけど……」
画面には、小さな習慣管理アプリが映っていた。
毎日のタスクを入力すると、達成度がグラフになるシンプルなものだ。

琉「すごいじゃないですか！　これ澪さんが作ったの？」
澪「はい。まだ初心者レベルですが……自分で作れたら嬉しくて」
琉「いや、立派ですね。俺なんかコード見てもチンプンカンプンだし」

琉の言葉に、澪は思わず頬を赤らめた。
澪「そんな……でも、ありがとうございます。」

一息ついた後、琉がコーヒーを啜りながらふっと笑う。
琉「澪さん。」
澪「はい？」
琉「そろそろ敬語やめない？　俺、ずっと澪さんに敬語で話されるの、ちょっと距離感じるんだよね。」

突然の提案に澪は目を丸くした。
「えっ、でも……私なんかがタメ口でいいんですか？」
「“私なんか”禁止。澪さんは澪さんだろ？　俺も敬語やめるからさ」

琉の真剣な目を見て、澪は少し戸惑いながらも頷いた。
澪「……わかった。じゃあ、今日から」
琉「よし。改めてよろしくな、澪さん」
澪「うん……よろしくね、琉くん」

その瞬間、二人の間にあった“推しとファン”の境界線が、少しだけ溶けていくのを澪は感じた。