一目惚れの彼は推しでした

その日、ライブハウスは熱気に包まれていた。
照明が落ち、観客の歓声が響く。
澪は客席の後ろの方に立ちながら、心臓が破裂しそうなくらいに高鳴っていた。

(今日……新曲をやるって言ってた。あの、夕焼けの海で生まれた曲……)

ステージ中央に立つ琉がマイクを握る。
客席のざわめきが静まり返ると、彼は深呼吸して言った。

琉「今日、初めて披露する曲があります。
 大切な人と過ごした時間の中で生まれた歌です。」

観客から歓声が上がる。
けれど澪には、その言葉がまっすぐに届いた。
(大切な人……それって……)

ギターの音が流れ、柔らかなメロディが会場を包む。
そして琉の声が響き渡った。

《夕焼けに溶けた不安も
君となら歌になる
弱さを隠さずに 歩いていけるから》

澪は思わず手を口に当てた。
歌詞の一つひとつが、あの海辺で交わした会話と重なっていく。
琉の声は力強く、でもどこか優しさを含んでいて―彼が今、本当に伝えたい想いを歌っているのが分かった。

サビに入ると、会場は一気に盛り上がる。
観客はその新しい曲に引き込まれ、手を振り、体を揺らす。
けれど澪はただ、涙が止まらなかった。

(私……この歌の一部になってるんだ)

その実感が、胸の奥に温かく広がっていく。

曲が終わると、会場には大きな拍手と歓声が鳴り響いた。
琉は息を切らしながらも、ふっと柔らかく笑った。
そして一瞬だけ―観客の中にいる澪を見つけたように視線を投げかけた。

澪の胸はまた強く鳴り響く。
それは「推しとファン」という一方通行の距離ではなく、確かに“つながっている”瞬間だった。

(私も……自分の道をちゃんと歩こう。琉さんみたいに、自分の想いを形にできる人になるために)

ライブの熱狂の中で、澪は静かに新しい決意を抱いていた。