一目惚れの彼は推しでした

退職してからの澪は、不安と同時に「自由」という新しい感覚を味わっていた。
(でも、これから私は何をすればいいんだろう……)

ある日、カフェでノートPCを開く琉の姿を思い出す。
琉はよく、楽曲のアイデアをPCに打ち込んでいた。
そのとき澪は、画面の中でキーボードを叩く姿に小さな憧れを抱いていた。

―「私も、何かを“作る”人になりたい」

そう思った澪が出会ったのは、Webデザインの求人だった。
「未経験からでもアプリやWebサービスを作れる」という言葉に惹かれ、気づけば応募していた。

会社に所属しつつ、派遣のような形で働きながらプログラミングの学習を進める。

最初はコードを打ち込んでもエラーばかり。
画面に赤い文字が出るたびに心が折れそうになる。
けれど、子どもたちが失敗しても立ち上がる姿を思い出し、また挑戦した。

そして数週間後。
「Hello, World!」の文字が自分の手で動かしたプログラムに表示された瞬間――
澪の胸にじんわりと熱いものが広がった。

(私でも……何かを生み出せるんだ)

琉にそのことを報告すると、彼は目を輝かせた。
琉「すげえ! 澪さん、もうクリエイターの仲間入りですね!」
澪「まだまだ初心者ですけど……でも、楽しいんです」
琉「その“楽しい”って気持ちがあれば大丈夫です。俺も音楽は楽しいから続けられてるんで。」

琉の言葉に、澪は確信した。
―私は、私のやりたいことを選んでいいんだ。

かつて“推し”だった人が、今は自分の夢を応援してくれる存在になっている。
澪は新しい一歩を踏み出しながら、その幸せを噛みしめていた。