一目惚れの彼は推しでした

保育士をしていた澪(25歳)は、自分に自信がなく、先輩保育士に罵倒されながら働いていた。

ある日、友達に誘われて初めてV系バンドのライブに行った。そこではステージの中央で歌う琉の姿があり、どんな人より闇を感じつつも眩しく見えた。

その後の休日、ショッピングに出掛けると街中で琉に似た人がいた。
澪は人違いや迷惑行為を避けるため、素通りしようとした。すると向こうが「この前ライブに来てくれた子ですよね?」と声をかけてきた。澪は驚きつつも「はい。楽しかったです...!」と答えた。

澪は胸の鼓動を抑えられず、両手をぎゅっと握りしめた。
ライブの後ろ姿を必死に焼き付けて帰ったはずなのに、こうして本人から声をかけられるなんて、夢みたいだった。

「楽しかったならよかったです」
琉はふっと口角を上げた。ステージの上で見せる鋭い笑顔とは違い、街中でのそれは意外にも柔らかく、澪の心を一瞬で溶かしてしまった。

琉「普段はここらへんにいるんですか?」
澪「え、えっと……休みの日は、よく買い物に来たりはします」
澪はうまく言葉を繋げられず、視線を逸らす。
すると琉は、まるで彼女の緊張を見透かしたかのように笑った。

「安心して。変な意味じゃないんです。ただ、俺が好きなカフェが近くにあって。もし時間あるなら、一緒に行きませんか?」

突然の誘いに、澪の思考は真っ白になった。
推しと同じ空間に座って、話すなんて……。
だけど胸の奥から湧き上がる嬉しさに、断るという選択肢はすぐに消えていった。

「……はい。ぜひ」

その返事を聞いた琉は、まるで舞台裏で誰にも見せない素顔を少しだけ覗かせるように、満足そうに頷いた。

こうして澪の“日常”は、静かに、しかし確実に色を変え始めていた。