「王子様になったら、ママともっと触れ合うことができるのよ?」
美しい魔女は顔を近づけ、静かに言った。
「ふ・か・くね?」
ゆっくりと母の手が、股下に伸び。
その後はーー後の祭りだった。
甘い鞭と飴を分け与えられる、サーカスを夜の帳が支配する。
「僕、ママの事ーーー大好き」
そんな母を必死に抱きしめた、ドクロの夢。
そう口走っていた呪いの夢世界から、目覚め。
目の前にいるカウンセラー。
松山先生に差し出されたコップの水を飲み干した。
その様子をこなれたように眺めるカウンセラー。
やはり修羅の道を辿ってきた故に、冷静を保っていられるのか。
「やはり、思い出すか?」
もう一つ水を差し出し、テッシュも差し出し。
「そりゃもう……。
仕事中にもきつい時がある」
溢れ出た涙を、吹くことしか出来なかった。
何回目だろうか。
このカウセリングとやらを、受けたのは。
「特にどんな時?」
どんな時と言われても、ほぼ毎日なのだがというのを押さえ。
「女性の年配の人と話す時」
一番、心が痛む瞬間だけ話した。
理由はこれ以上話すと、自分が壊れてしまいそうだったから。
「そりゃ、辛いな。
他には?」
他には……か。
目を閉じ、記憶を巡らせ止める。
「ちょうど春先だな。
母親が別の既婚者不倫して、初めて縁を切った時期だから」
先生はメモを取っている。
対策をねっているのだろう。
ここは精神病院の一角のカウンセラー室。
無機質な白い壁と、カーテンが柔らかな風を向かい入れる。
俺はーーー。
俺は、いつになったらこの母親と決別できるのだろう。
思い出したくもないのに「夢」が忘れないでと囁くもので。
一瞬たりとも気が引けない毎日を、震えながら過ごしている。
あの期間から5年以上だ。
立ち直れないイライラが募って早3年。
焦り、藻掻いて、全身を擦りたい気持ちをぐっと堪える。


