深く、雪の積もる日のことだった。
一瞬、一瞬だったんだ。
私が、絶望のどん底に落ちたのは。
大事な試合だったんだ。これに勝てば、先輩達に全国大会優勝のタイトルをプレゼントできる。
後少し、後少しだったのに。
「 行けー!!▒▒▒ー!! 」
得意のスリーポイント。打った瞬間に確信した。
『入った。』
__すぱんッ…。 あぁ…、好きだなぁ、この音。
そんな、私が愛してやまないこの音と一緒に聞こえたのは、自分の頭が床にぶつかる音、そして…"何かが、切れた音"。
私が、最後に覚えているのはこれだけ。
小さい時の記憶も、自分の名前も、家も、親の顔でさえも、起きた時には何も覚えていなかった。
でも、何故か、一つだけ頭に浮かんだ声があった。
あれはなんだったんだろう。高校生になる、前日まで私は分からないままだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「 おい、朝だぞ〜。起きろ〜 」
そんな声で、私は目を覚ました。ふわぁ〜っと大きなあくびをして声の主の方へ目を向ける。
「 あと5分だけ〜…」
怠けた声でそう言うと、いきなり身体が宙に浮く感覚がした。
「 えッ、あ、河野さん…! 」
「起きた?おはよう、」
流石に、お姫様抱っこと呼ばれる女の子扱いを受けたら目が覚めたのか驚いた声で言った。
「 起きたのなら、早く顔洗っておいで 」
優しくベットに降ろしてそういうこの男性は、この家でルームシェアをしている河野 滝さん。めっちゃ水っぽい名前と同じで、髪の色も青みがかった灰色。
「 はいっ 」
「 おはようございます香世子さんっ 」
下に降りては、朝ごはんを笑顔で作っている四十代後半ぐらいのおばさん。この家の家主である、篠井 香世子さん。
「 あ〜、千弦ちゃん。おはよう 」
私が声をかけると、明るく挨拶を返してくれた。
顔を洗いに洗面所の扉を開けると、服を脱いでいる最中の男の人がいた。
「 わぁあッッ!!!!ごめんなさいッ三好さんッ!!! 」
「 あはは、いいよ千弦ちゃん。 」
容器に、優しくそういうこの人は三好 一嘉さん。女の子見たいな名前をしているけれど、ちゃんと男の人だ。
「 すみません…おはようございます…。 」
「 おはよう。そういえば今日、入学式だっけ? 」
「 あッはい、そうですッ 」
そんな会話をしながら、私は顔を洗ったり寝癖を直したりしていた。
「 そうだ。ご飯のあと髪の毛セットしてあげるよ。 」
鏡越しに眼を合わせながら、三好さんが言った。
「 えッ本当ですか!嬉しいですッ是非お願いします! 」
「 うん、良いよ。ご飯のあとまた声掛けるね 」
ふんわりと笑った三好さんの顔は、本当に男の人なのかと思うほど、可愛らしかった。
その後、顔だけ洗ってパジャマのままリビングへと向かった。
「 わぁ…美味しそう…。 」
「 みんな揃ってからよ?千弦ちゃん、 」
「 ぇあ、そうですよねっ 」
あまりにもきらきらとした目で見ていたのがバレたのか、そんな風に揶揄われた。
「 おッ、清水ちゃんおはよう。 」
「 おはよう。一ちゃん。 」
一番最後に角の部屋から姿を出したのは、クールなお姉さんの清水 杏さん。職業が、写真家で一日の半分は殆ど部屋にこもっている。
三好さんとは、昔からの知り合いだとかなんだとかで、一ちゃん(いっちゃん)と呼んでいる。
「 おはようございます、清水さん。 」
「 杏で良いよ、千弦ちゃん。 」
クールなお姉さん系の清水さん…。やっぱりかっこいいな、なんて心の中で思っていた。
「 全員揃ったわねっ。じゃあ、いただきます。 」
「「 いただきます、 」」
みんな、それぞれ違うところから食べ始めていると、河野さんが口を開いた。
「 いつもは皆ばらばらなのに、なんで今日は揃って食べるんですか?香世子さん 」
みんな疑問に思っていたのか、うん〃と頷いた。
「 それはね、千弦ちゃんのおめでたい日だからよ。ほら、今日は千弦ちゃんの入学式じゃない 」
香世子さんがそういうと、納得したように頷いた。
PPP!!…PPP!!…
「 わッ、支度しないと…っ 」
みんなが食べ始めてから時間が経ったあと、リビングにアラーム音が響いた。
千弦の、身支度の目安時間だ。
「 香世子さん、ご馳走様でしたっ! 」
「 洗面所借りますね〜っ! 」
「 はぁ〜い 」
今日から晴れて高校生になる。
この家に入居した時に香世子さんに作ってもらった〘チヅル〙とネームプレートに書かれ大事引き出しを引き、靴下や、下着類を取り出した。
シワひとつない新しい制服をハンガーから取り、鏡越しに見た。
あまり見ない、深緑のシャツに真っ黒なスカート。リボンとネクタイは自由に選べた。だから、小さく白色で校章が描かれた真っ黒なネクタイを締めた。白色の短めのソックスを履いて、" 昔から " お気に入りのメーカーのブルーピンクのリップをつけた。
「 三好さん〜、準備出来ましたっ 」
「 はいは〜い。鏡の前に座っといて〜 」
リビングの方へ叫ぶと、そう三好さんが答えた。
言われた通りに鏡の前に座っていると、がちゃっと扉が開いた。
「 おぉ〜、イイネ。似合ってるよ 」
「 そうですか?ありがとうございます、 」
色々と道具の入っているであろうカゴを指にぶら下げてはそう言い、私の後ろへ立った。
「 そうだなぁ、千弦ちゃんはかっこいい方がいい?それとも可愛い方? 」
「 そうだなぁ…どっちもいいなぁ… 」
うーん…と悩ましそうにしていると、
「 千弦ちゃんは欲張りみたいだから、どっちも入れようか。 」
「 どっちもですかっ!良いんですか、三好さんっ 」
「 ふふ、良いよ。さっ、早くしてしまおう。滝が甘いもの作ってくれてるよ 」
それを聞いて喜ぶ私をよそに、テキパキとスタイリングをしていく三好さん。
「 ごめんね、ちょっと引っ張るよ 」
「 は〜い 」
くいっくいっと少し引っ張るように三つ編みをしていく。その手は繊細で、心做しか少しドキドキしてしまった。…実はと言うと、私は手と喉仏…それから声が大好きなプチ変態である。血管が少し浮いている手なら尚良し。
「 千弦ちゃんは、青か黄色どっちが好き? 」
チビゴムで一度くくっているのか、右手に青色のリボン、左手には黄色のリボンを持っていた。
「 ん〜、青色が良いですっ 」
「 了解 」
短く返事をすると、リボンをつける三好さん。
すると、スプレーを取り出しては「 目瞑っててね 」 と言うように目をトントンとして。
急いでぱちっと目を閉じると、シューッとスプレーを振る音が聞こえた。
「 うん、可愛い。できたよ、完成だ 」
「 わぁ…!!可愛いっ、ありがとうございます三好さんっ! 」
そう言うと、満足気にニカッと笑った。
駆け足でみんなのいるリビングへと行くと、着物を着た香世子さんと、かっこいいスーツを着た河野さんがいた。
「 あらっ、すごく似合ってるじゃないのっ! 」
「 おぉ、可愛い。似合ってるよ 」
「 俺が髪の毛セットしました〜。 」
みんながそう褒めてくれれば、少し気恥ずかしげに御礼を言う。
「 さっ、そろそろ行きましょうか。 」
香世子さんが巾着を持ち、そう言う。私は急いでカバンを持ち、ネクタイを整えてパタパタと後を追った。
最後に、黒の上品なブレザーを来て三好さんと杏さんに笑顔で言った。
「 行ってきます! 」
『 行ってらっしゃい〜 』
どんな高校生活が始まるのか、期待を胸に私は家を出た。
一瞬、一瞬だったんだ。
私が、絶望のどん底に落ちたのは。
大事な試合だったんだ。これに勝てば、先輩達に全国大会優勝のタイトルをプレゼントできる。
後少し、後少しだったのに。
「 行けー!!▒▒▒ー!! 」
得意のスリーポイント。打った瞬間に確信した。
『入った。』
__すぱんッ…。 あぁ…、好きだなぁ、この音。
そんな、私が愛してやまないこの音と一緒に聞こえたのは、自分の頭が床にぶつかる音、そして…"何かが、切れた音"。
私が、最後に覚えているのはこれだけ。
小さい時の記憶も、自分の名前も、家も、親の顔でさえも、起きた時には何も覚えていなかった。
でも、何故か、一つだけ頭に浮かんだ声があった。
あれはなんだったんだろう。高校生になる、前日まで私は分からないままだった。
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「 おい、朝だぞ〜。起きろ〜 」
そんな声で、私は目を覚ました。ふわぁ〜っと大きなあくびをして声の主の方へ目を向ける。
「 あと5分だけ〜…」
怠けた声でそう言うと、いきなり身体が宙に浮く感覚がした。
「 えッ、あ、河野さん…! 」
「起きた?おはよう、」
流石に、お姫様抱っこと呼ばれる女の子扱いを受けたら目が覚めたのか驚いた声で言った。
「 起きたのなら、早く顔洗っておいで 」
優しくベットに降ろしてそういうこの男性は、この家でルームシェアをしている河野 滝さん。めっちゃ水っぽい名前と同じで、髪の色も青みがかった灰色。
「 はいっ 」
「 おはようございます香世子さんっ 」
下に降りては、朝ごはんを笑顔で作っている四十代後半ぐらいのおばさん。この家の家主である、篠井 香世子さん。
「 あ〜、千弦ちゃん。おはよう 」
私が声をかけると、明るく挨拶を返してくれた。
顔を洗いに洗面所の扉を開けると、服を脱いでいる最中の男の人がいた。
「 わぁあッッ!!!!ごめんなさいッ三好さんッ!!! 」
「 あはは、いいよ千弦ちゃん。 」
容器に、優しくそういうこの人は三好 一嘉さん。女の子見たいな名前をしているけれど、ちゃんと男の人だ。
「 すみません…おはようございます…。 」
「 おはよう。そういえば今日、入学式だっけ? 」
「 あッはい、そうですッ 」
そんな会話をしながら、私は顔を洗ったり寝癖を直したりしていた。
「 そうだ。ご飯のあと髪の毛セットしてあげるよ。 」
鏡越しに眼を合わせながら、三好さんが言った。
「 えッ本当ですか!嬉しいですッ是非お願いします! 」
「 うん、良いよ。ご飯のあとまた声掛けるね 」
ふんわりと笑った三好さんの顔は、本当に男の人なのかと思うほど、可愛らしかった。
その後、顔だけ洗ってパジャマのままリビングへと向かった。
「 わぁ…美味しそう…。 」
「 みんな揃ってからよ?千弦ちゃん、 」
「 ぇあ、そうですよねっ 」
あまりにもきらきらとした目で見ていたのがバレたのか、そんな風に揶揄われた。
「 おッ、清水ちゃんおはよう。 」
「 おはよう。一ちゃん。 」
一番最後に角の部屋から姿を出したのは、クールなお姉さんの清水 杏さん。職業が、写真家で一日の半分は殆ど部屋にこもっている。
三好さんとは、昔からの知り合いだとかなんだとかで、一ちゃん(いっちゃん)と呼んでいる。
「 おはようございます、清水さん。 」
「 杏で良いよ、千弦ちゃん。 」
クールなお姉さん系の清水さん…。やっぱりかっこいいな、なんて心の中で思っていた。
「 全員揃ったわねっ。じゃあ、いただきます。 」
「「 いただきます、 」」
みんな、それぞれ違うところから食べ始めていると、河野さんが口を開いた。
「 いつもは皆ばらばらなのに、なんで今日は揃って食べるんですか?香世子さん 」
みんな疑問に思っていたのか、うん〃と頷いた。
「 それはね、千弦ちゃんのおめでたい日だからよ。ほら、今日は千弦ちゃんの入学式じゃない 」
香世子さんがそういうと、納得したように頷いた。
PPP!!…PPP!!…
「 わッ、支度しないと…っ 」
みんなが食べ始めてから時間が経ったあと、リビングにアラーム音が響いた。
千弦の、身支度の目安時間だ。
「 香世子さん、ご馳走様でしたっ! 」
「 洗面所借りますね〜っ! 」
「 はぁ〜い 」
今日から晴れて高校生になる。
この家に入居した時に香世子さんに作ってもらった〘チヅル〙とネームプレートに書かれ大事引き出しを引き、靴下や、下着類を取り出した。
シワひとつない新しい制服をハンガーから取り、鏡越しに見た。
あまり見ない、深緑のシャツに真っ黒なスカート。リボンとネクタイは自由に選べた。だから、小さく白色で校章が描かれた真っ黒なネクタイを締めた。白色の短めのソックスを履いて、" 昔から " お気に入りのメーカーのブルーピンクのリップをつけた。
「 三好さん〜、準備出来ましたっ 」
「 はいは〜い。鏡の前に座っといて〜 」
リビングの方へ叫ぶと、そう三好さんが答えた。
言われた通りに鏡の前に座っていると、がちゃっと扉が開いた。
「 おぉ〜、イイネ。似合ってるよ 」
「 そうですか?ありがとうございます、 」
色々と道具の入っているであろうカゴを指にぶら下げてはそう言い、私の後ろへ立った。
「 そうだなぁ、千弦ちゃんはかっこいい方がいい?それとも可愛い方? 」
「 そうだなぁ…どっちもいいなぁ… 」
うーん…と悩ましそうにしていると、
「 千弦ちゃんは欲張りみたいだから、どっちも入れようか。 」
「 どっちもですかっ!良いんですか、三好さんっ 」
「 ふふ、良いよ。さっ、早くしてしまおう。滝が甘いもの作ってくれてるよ 」
それを聞いて喜ぶ私をよそに、テキパキとスタイリングをしていく三好さん。
「 ごめんね、ちょっと引っ張るよ 」
「 は〜い 」
くいっくいっと少し引っ張るように三つ編みをしていく。その手は繊細で、心做しか少しドキドキしてしまった。…実はと言うと、私は手と喉仏…それから声が大好きなプチ変態である。血管が少し浮いている手なら尚良し。
「 千弦ちゃんは、青か黄色どっちが好き? 」
チビゴムで一度くくっているのか、右手に青色のリボン、左手には黄色のリボンを持っていた。
「 ん〜、青色が良いですっ 」
「 了解 」
短く返事をすると、リボンをつける三好さん。
すると、スプレーを取り出しては「 目瞑っててね 」 と言うように目をトントンとして。
急いでぱちっと目を閉じると、シューッとスプレーを振る音が聞こえた。
「 うん、可愛い。できたよ、完成だ 」
「 わぁ…!!可愛いっ、ありがとうございます三好さんっ! 」
そう言うと、満足気にニカッと笑った。
駆け足でみんなのいるリビングへと行くと、着物を着た香世子さんと、かっこいいスーツを着た河野さんがいた。
「 あらっ、すごく似合ってるじゃないのっ! 」
「 おぉ、可愛い。似合ってるよ 」
「 俺が髪の毛セットしました〜。 」
みんながそう褒めてくれれば、少し気恥ずかしげに御礼を言う。
「 さっ、そろそろ行きましょうか。 」
香世子さんが巾着を持ち、そう言う。私は急いでカバンを持ち、ネクタイを整えてパタパタと後を追った。
最後に、黒の上品なブレザーを来て三好さんと杏さんに笑顔で言った。
「 行ってきます! 」
『 行ってらっしゃい〜 』
どんな高校生活が始まるのか、期待を胸に私は家を出た。

