勉強会のご褒美は。


……私、終わった?

絶対怒ってるよね、遥翔様。

ど、どどどどうしよう…っ

この後も多分、遥翔様の部屋にお邪魔して問題集の提出とかしないといけないのに……。

気まずい……、それに、もしかしたら遥翔様の部屋はもう行っちゃダメかも…?

とりあえずで流しちゃダメな気しかしないけど、とりあえず、問題集やろう……。

問題集を9時までにしないほうが怒られる気がするから。


分からない問題を飛ばしながら解き始めて数十分。

遥翔様の部屋の扉が開く音がした。

あ、お風呂から上がられたかな?

さっきのこと謝らないと…っ
ちょっと怖いけどね…

重い腰で椅子から立ち上がり、遥翔様の部屋に繋がる扉をノックする。

すると、返事より先に扉が開いた。

開いた扉の先にいたのは、ふてくされた顔をしている遥翔様。

え、何この顔かわいい…っじゃなくて!

謝るんだ!!!



「遥翔様、先ほどの失言、大変申し訳ございませんでした…っ! でも、」



腰を直角に曲げて、誠心誠意謝る。



「でも?」

「ここからは、私の言い訳の部分のようなところもあります。それでも、聞いてくださいますか。」



私から扉をノックして、返事はなかったとしても、遥翔様は扉を開けてくださった。

もし、解雇するくらいに怒っていなたら、扉を開けずに無視していたと思う。

だから、無視しなかったことを、まだチャンスがあるって捉えたい。

お願い、言い訳だけでも、聞いてください…!



「わかった。言い訳、言って。」



い、良いんですか…!

ぱっと顔を上げ、緊張のあまり暴れる心臓を唾を飲み込んで抑える。



「……遥翔様は目上の人です。目上の人には、失敗したり、失礼なことをしたら、起こられる、解雇されてしまうのではないかという恐怖がります。もちろん、遥翔様も例外ではありません。……うまく言えませんが、私は遥翔様のことを人思いで優しい方だと思っています。怖い気持ちは、この10分の1にも満たないです。」

「なるほど?」

「な、なのでっ、怖いと思う気持ちは全員に多少持っていて、遥翔様は一番と言っていいほどにその怖いと思う気持ちが少なくて、むしろあってきた人のなかで1番優しい方で、物の考え方など、尊敬しています!」

「ふむ……。」



人よりない語彙力で頑張って伝えたつもりだけど、伝わったかな…?

伝わっていてほしい…!

ここ、西郷家で仕事を初めてまだ2日だけれど、こんなに働いて楽しいと思ったことはないから、まだここで働いていたいっ。


「……そうか、ありがとう。」


許していただけた…?



「まぁ、もともと怒っているわけじゃないし、解雇とかしないから安心してくれ。」

「あっ、ありがとうございます!」



許していただけたっ! よかったぁぁあ!

本当に、これで解雇されたらどうしようかと思った……。



「あ、でもさ。」

「はい……?」


クイッ


「へっ?」

「こっちの俺も忘れないでね。」


バタンッ

ガチャッ


「俺今から氷と話すから部屋いねぇけど、問題集終わったら机の上置いといて。メモ書きとかいらねぇから。んじゃ。」


バタンッ


え…、え?

部屋にいないけど問題集は机の上においとけっていうのは、わかった。

わかったんだけど……、その前!

え、顎をクイって、された……?

いわゆる顎クイってやつされた?!

一瞬すぎてボディーガードたるもの全然反応できてないのヤバいけど、それより……え、顎クイされた?

こっちの俺も忘れないでねって、遥翔様の本性のこと、だよね?

混乱する頭でとりあえず椅子に座ってパッと目に入った時計の針は、8時を指している。

……8時!?ヤバい!9時まであと1時間しかない!


苦手な教科の社会半分と英語が全部残っていることのヤバさに、今さっきの出来事なんぞ頭からのけて力任せに問題集をやること55分。


「お、終わった〜!!」


赤ペンで最後の英文一文を書き終えて、椅子の背もたれに体を預ける。

9時まであと5分…!すっごいギリギリだけど、終わってよかったぁ…っ!

えっと、遥翔様の机の上に置いておくんだよね。

部屋に入るの気まずいなぁ……。

遥翔様の部屋の方に耳を傾けて遥翔様が部屋に戻っているかを確認する。

物音がしない……ってことはまだ帰ってきてないってことだよねっ。

問題集をもって、一応ノックだけして部屋に入る。

机に問題集だけ置いてササッと部屋を出る。

ふぅ……、とりあえず、今日のミッション完了!

すっごい頑張った〜!

3時間も勉強したの初めてだよ……肩が痛い…。

9時だからお風呂は私たちの使って良い時間だよね。
入りに行こぉ……。


入浴セットを持って、お風呂に入りに行くと、ちょうど河原さんと会った。



「あら、弥夏さん。お疲れ様です。」

「河原さん…!お疲れ様です!」

「転校初日、どうでしたか?」

「色々ありましたが楽しかったです…っ!」

「色々…?遥翔様が用意した訓練ですね、大丈夫でしたか?」



あ、河原さんは訓練のこと知っているんだ!

言って良いのかわからなくて濁したけど、知ってるなら濁す必要なかったなぁ。



「学校では初めてで緊張しましたが、なんとか制圧できました。」

「ふふ、良かったですね。」



まるでお母さんのような雰囲気がある河原さんと話しながら、お風呂に入って、歯磨きとかもすべて終わらせてから部屋に戻ってきた。

ハンガーにタオルをかけようとして机の上に問題集が置かれていることに気がついた。

遥翔様、問題集見てくださったのかな?

あ、メモが書かれてる、なんだろう…?


「明日の朝、マラソンする時俺も行く。弥夏が起きた時に俺も起こせ。」


え、明日の朝、遥翔様もマラソンに…?

遥翔様がマラソンに一緒に来てくださるのは大丈夫、というか一人は寂しかったからむしろ嬉しい。

でも、朝って言っても5時だよ?

今日は6時50分に起こしに行ったけど、そのときでもすごく眠そうだったんだよ…?

その2時間前って……、私無事に起こせるのかな…。

朝起きるときはすごい不機嫌なあの遥翔様を…?

すごく不安でしかない……。

どうかスムーズに起きてくださいますようにと願いながら、問題集を手にベッドに横になる。


これ、明日までに理解しないといけないんだもんねー…。

数学と国語、社会も結構わかったから、理科と英語だなぁ。

でも、理科は結構分かるようになったんだよね!

あとは実験道具の名前覚えられれば大丈夫だと思う。

で、相変わらず英語は壊滅的なんだよねぇ……。
丸付けした後の赤だらけの問題集を思い出して英語のページを開くと、中から何かが顔に落ちてきた。


「痛い!」


拾い上げると、それは冊子で、英語文法チェック表と書かれていた。

そして下の方にメモがあって「英語が絶望的にできていなかったからこれで理解しろ」と書いてある。

えっ、良いんですか遥翔様っ?!

わざわざ絶望的だなんて書かなくても良いと思いますけど…っ、ありがとうございます…!

中を開いてみると、すごく分かりやすそうに説明が書いてある。

問題集を机に置いて冊子を読み始める。

途中で目が閉じそうになったけど、なんとか最後まで読んで、もう睡魔に勝てそうになく冊子も机の上に置いた。

まぁ、なんとかなる! 大丈夫っしょ…!

今日は疲れたし、もう寝よう…。


毛布をかぶって瞼を閉じると、一瞬で夢の世界へと飛ばされた。