文子の話を、咲は真剣な顔で聞いていた。
実は、咲は家族で花見をしたことがない。
幼い時に両親が離婚し、母親に引き取られたが、スナックで仕事をしていた為、昼間は眠っていて、夜は仕事。帰ってこない日もあった。今でいえばネグレクトになるのかな?文子の家族の話を聞いて、そんな家族が夢に見ていた家族だなと頭の中で考えていた。
そんなことを考えていると、「おばあちゃん」と誰かの声がする。
立ち上がり庭の出入口を見ると、20代くらいの男性がニコニコと笑いながら、早足でこちらに向かい歩いてくる。
咲は、ボーッとその男性を目で追いかけた。
文子が男性に気づき、笑顔で、手を振る。
男性は文子の前にきて、「久しぶり」と笑顔を見せている。「来てくれたの」と嬉しそうに話す。
「仕事が落ち着いたから少し休みをもらったんだ」
と男性が文子に話し、咲の方を見て、ペコッと頭を下げる。それと同時に、文子が「孫の加賀美 凉地(かがみ りょうち)です。こちらは咲さんです」とお互いを紹介してくれた。
凉地は「いつも祖母がお世話になっています。」と挨拶した。咲は「こちらこそ、、」と頭を下げる。
顔をあげた瞬間、咲は凉地から目が離せなくなる。
初めて見た凉地があまりにも綺麗な顔をしていたからだ。目鼻立ちはしっかりしていて、いい具合に焼けている肌。身長も180cm以上あるだろう。足も長くスタイルも良い。
文子が「咲さんが、散歩に行こうと、庭に連れてきてくれたんだよ。本当に気持ちよくて。おしゃべりして楽しんでたところだったのよ」と話す。「あ、そうです」と緊張で小さな声でしか答えられない咲。
凉地はニコッと笑う。それがまたたまらなく可愛いくて、咲の心臓は飛び出しそうなくらいドキドキしていた。
そんな咲を差し置いて、文子と凉地は楽しそうに話をしていた。それを眺めてただ立っている咲。
すると、凉地が話しかける。
「あとは僕が付いているので、大丈夫です。ありがとうございます」と頭を下げ、文子の車椅子の取っ手を持っている。
はっと我を取り戻した咲は、「分かりました。お願いします」と鞄を渡した。「あちらからお部屋に戻ってください」と中へ続く出入口を指先し、文子にも頭を下げて、咲はスタスタと中へ戻る。
歩いている間もまだ胸がドキドキしている。
でも歩いていくうち少しづつ冷静になった

なにドキドキしているんだ?
そう思うと、急に自分が恥ずかしくなってきた。
”なんで45歳の私が、20代であろう凉地にドキドキしているんだ”と思い、自分の手で頭を叩きながら、「バカ、バカ」と独り言を話す。
そのまま、中間の部屋へ行く。
咲は中間に「文子さんは、お孫さんがいらしているので、私はフロアに戻ります。お孫さんと文子さんは庭にいます」と伝え、中間の返事も聞かずにフロアに向かった。
フロアに着くと、何も無かったかのように振る舞うのに苦労したが、いつも通りに仕事をこなした。
しばらくして、文子と凉地がフロアへ戻ってきた。
その事に気づいていたが、先程の恥ずかしさがあり、他の入居者のお世話をしていた。
咲は、凉地の事を見ないように、見ないようにと心の中で思っていたが、思いがけず凉地が声をかけてきた。
「今日は祖母を散歩に連れて行ってもらい、ありがとうございます。外に出られて嬉しかったと話していました。しばらく面会に来れそうなので、また明日来ます」とのこと。
・・・・・・・・・・・
少しの沈黙があり、
咲は、え〜っ!!明日も来るの!?と嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちを抑え、「お祖母様も喜ぶと思います。お待ちしております」と笑顔で頭を下げる。凉地も頭を下げ、文子の所へ戻って行った。
咲は複雑な感情で、口を開けてボッーとしていた。
少し文子と話をして、凉地は帰っていった。
本当に明日も来るのかな?と少し期待する咲。

翌日、凉地は面会に来ていた。昨日と同じ時間帯に。
咲は凉地を目で追いながら、仕事をしていた。
そこに同僚の吉川 成美(よしかわ なるみ)がにやけながら近づいてくる。成美は25歳のキラキラした女の子。
私と同じ時期にこの施設で働き出している。
まぁ若い子だなーと思うくらいキャピキャピの
咲の「文子さんの」