背筋に悪寒が走り、恐怖で凍り付いた。
腕を振り解きたいのに、強い力で掴まれて振り解けない。
「人が優しくしてやってるのにつけ上がりやがって!」
「はなして……っ」
やだ、こわい、誰か助けて……!!
周囲を見回したけれど、奥まったところのせいか誰も通らない。従業員すらいない。
誰にも気づいてもらえないんじゃないかという恐怖心が一気に心を支配する。
「信士くん……っ」
思わず彼の名前を呼んでいた。
その直後、バキッという鈍い音が聞こえた。次の瞬間、掴まれていた腕が解放されたかと思うと、そのまま大きくてたくましい腕の中に閉じ込められる。
「信士くん……?」
顔を見上げると、信士くんが見たこともない怒りの形相で八代さんを睨みつけていた。
瞳孔が開いており、額には青筋が立っている。
八代さんは顔を押さえて尻餅をついていた。やや頬が赤くなっているのが見えた。
「うう……っ」
「彼女から離れろ」
ドスの効いた低い声と刺すような鋭い視線に、八代さんは縮み上がっている。
だけど彼の中のわずかなプライドが支えているのか、震える声で喚いた。
「お、お前こそ何なんだ! 僕の蘭ちゃんに馴れ馴れしく触りやがってっ」
私はいつからあなたのものになったの?
鳥肌が全身に立つくらいゾッとした。
「彼女は、俺の婚約者だが?」
身の毛がよだつ程の悪寒は彼の言葉で瞬時に消え失せる。
「な、なんだって……?」
「聞こえなかったか。俺の婚約者だと言ったんだ」
「う、うそだ! バカなこと言うな!」
「嘘じゃない。これから両家顔合わせ、結納を済ませて年内に籍を入れる。蘭は俺の妻になるんだ」



