「あの時は心底驚いたよ。まさか俺自身に興味がない御令嬢がいるなんて思いもしなかったし、強引にハンカチを掴まされていたことにもびっくりした」

 くつくつと嬉しそうに思い出し笑いをするフレンを見ながら、アリシアは慌てて口を開く。

「あなたが学園内で人気者なのは知っていたのよ。でも私にとっては雲の上の存在というか、むしろいろんな人から言い寄られてきっと大変なんだろうなって思っていただけなの。それに本当に口元が痛々しくて……」
「そんなアリシアだから俺は惹かれたんだ。あれから、アリシアのことが気になって仕方がなくて、素性を調べてアリシア自身と少しずつでも接点を取れるように努力したんだ。あまり目立った行動をすると君にも迷惑がかかると思って、最小限には留めていたけどな」

 確かに、学年の違うフレンとはなぜかあの日以来学園内でばったり出くわすことが多くなった。てっきり偶然だとばかり思っていたが、まさかフレンが狙ってやっていたことだったとは。

「アリシアのことを知れば知るほど好きになっていって、一緒になるならアリシアがいいと思ったんだ。だがら、親からそろそろ婚約をと言われた時に、アリシア以外の令嬢とは婚約しないと言ってアリシアを婚約者にしてもらった」

(ええ!?そんなゴリ押しみたいなことをしていたの!?)

 驚くアリシアの片手を取って、フレンはそっと手の甲に口付ける。

「とんでもない男に捕まったとでも思ってるか?残念だがこれからも手放すつもりはないから観念してくれ」

 フレンがそう言ってニッと笑うと、アリシアは呆れたような顔をしてからフフッと微笑む。

「私もとっくにあなたに絆されてるわ。離れてくれって言われても離れてあげられない」
「それならよかった。離れてくれなんて死んでも言わないから安心してくれ」

 口の端を上げて妖艶に微笑むフレンを見ながら、アリシアも嬉しそうに微笑んだ。