「!!」

 ハッ!とフレンは目を見開く。その視界には天井が映っていた。
 勢いよく体を起こすと、どうやらベッドの中のようだ。辺りを見渡すと、そこは見知った部屋。自分の屋敷の寝室だった。

(俺は、生きてる……?ここは、寝室だ。あの日、誰かに後ろから刺された場所でも時間でもない)

 部屋の中はまだ薄暗い。きっとまだ夜が明けていないのだろう。一体、自分はどの時間軸に帰ってきたのたろうか。

(……!!)

 ふと、隣に目を移す。そこには、見知った背中が静かに寝息を立てている。

(アリシア……アリシアだ!)

「ん……フレン……?」

 もぞもぞと寝返りを打ってこちらを向くと、アリシアは薄っすらと目を開けてからフレンの名前を呼んだ。

「アリシア……!」

 若い頃のアリシアではなく、同じくらいの年齢のアリシアだ。思わず声を出すと、アリシアは目を擦りながらゆっくりと体を起こした。

「もう、起きたの?」

 首をかしげながら不思議そうにそういうアリシアにフレンは勢いよく抱きつく。

「っ、えっ!?フレン?どうしたの!?」

 急に抱きつかれたアリシアは戸惑うが、フレンはアリシアの体をきつくきつく抱きしめた。アリシアの匂い、やわからい体の感触、髪の毛の質感、耳を優しく擽るような可愛らしい声。全てがアリシアがそこにいる、自分がちゃんと生きてアリシアを抱きしめているという実感になる。

(ああ、アリシアだ、アリシアだ……!)

 どんなに焦がれていただろう。死んでしまう、そう思った時アリシアに会いたいと願って、なぜか過去に戻ってしまった自分。若いアリシアには会えたが、そこにはもちろん若い頃の自分がいて、アリシアに気安く触れることはできなかった。

 それに、何よりも会いたいのはアリシア自身だ。若い頃のアリシアもアリシアということには変わりないが、未来のフレンを知らない。
 自分を知っている、共に人生を歩んできたアリシアに会いたくて会いたくて仕方がなかったのだ。

 抱きしめたくてたまらなかったアリシアが、今自分の腕の中にいる。その喜びでフレンはいつの間にか涙を流していた。

「フレン、泣いているの……?もしかして、怖い夢でも見た?」

(夢……あれは、夢だったのか?)