「私は、ずっとずっとあの家で、メイドたちにふさわしくない子だ、早くどこかにいなくなればいいのにと言われてきたのよ。お父様たちの知らないところでメイドたちに仕事を押し付けられたり、物を隠されたり。ドレスを破られたりもしたわ。お父様たちがそれに気づいてメイドたちを叱ったら、陰でお前のせいだってまたいじめられたわ。お父様が私をいじめたメイドの主犯格を辞めさせたらいじめは無くなったけど、今度はまるで腫れ物を扱うみたいに私から距離を置いたの。結局何も変わらない。私はあの家にふさわしくなくて、ずっとひとりぼっちなの」

 溢れる気持ちを堪えるようにドレスをぎゅっときつく握りしめ、淡々と語るメリッサ。

「でも、アリシアはメリッサのことを思ってくれていただろう。ご両親だってそうだ」
「お父様たちもお姉様も結局私のわがままを聞くだけ。どんなにひどいわがままを言っても、怒ることなんて一度もなかった。ただ、ホイホイと私の欲しいと言うものを与えてくれるだけよ。そんなの、本当に私のことを思ってくれてるなんて思えないわ。フレデリック様のことだってそう、ダメと言いながらも怒ることはしない。ただ腫れ物に触るように宥めるだけだもの。唯一叱ってくれるユーリお兄様は仕事でほとんどいない。結局私は誰からもちゃんと見てもらえないの」

 そう言ってから、アリシアをじっと見つめる。

「フレデリック様のことだって、どこまでやればお姉様が怒るのかしら、いつになったら怒ってくれるのかしらってずっと思っていた。でも、お姉様は一度も怒らないでしょう。この間のことだって、もっときつく怒ってくれてもいいのに、むしろ怒るべきことなのに、全然怒ってくれない。私は、本当の姉妹みたいに言いたいことをちゃんと言って、間違ったことをしたらちゃんと怒って欲しかった。そういう関係に、お姉様となりたかったのに」

 言いながら、メリッサの瞳に涙が浮かび上がる。だがメリッサはこぼれ落ちないように、必死に堪えていた。

(メリッサ、ずっとそんな風に思っていたのね、全然気がつかなかった。気がつくことができなかった)

 メリッサの気持ちを知って、アリシアは思わず席を立って駆け寄り、抱きつく。

「ごめんなさい、メリッサ。あなたにそんな風に思わせてたのね」
「お姉、さま」
「あなたのこと、大切に思ってるのは本当よ。嘘じゃない。でも、それを表現するやり方が間違っていたのね。私、あなたを叱ることで、あなたに嫌われるんじゃないかってずっと怖かったの。あなたに嫌われたくない、可愛い大切な妹だから、真綿で優しく包むようにしていればいいって勝手に思ってた。でも、違うのよね。私は怖がっていただけなんだわ。ごめんなさい、メリッサ」

 アリシアの言葉を聞いて、メリッサの肩が震える。メリッサの両目からは大粒の涙がボロボロとこぼれていた。

「お姉様なんて嫌い……!大嫌い……!」
「それは困ったわ、私はこんなに大好きなのに」

 アリシアは、ぎゅうっとメリッサを抱きしめる力を込める。

「これからは、あなたのことちゃんと怒るわ。遠慮なんかしない。ちゃんとぶつかって、ちゃんと分かり合えるように歩み寄るわ。だから、メリッサももうこんなことしないで」

 アリシアの腕の中で、メリッサがううう、とうめく。

「お姉、さま、ごめんなさい、大嫌いなんて、嘘、大好き……大好きだから……!」
「私も、大好きよ」

 そう言って、アリシアも涙を流しながらぎゅっとメリッサを抱きしめる。メリッサは、アリシアの腕の中でまた泣きながらうめいていた。