「お話って、何ですの？お姉様」

　メリッサがはり付いたような笑顔をアリシアに向けてそう言った。フレンが未来に帰る方法がわかってから三日後。アリシアは大切な話があると言って、メリッサを屋敷に呼び出した。

「この間、あなたがくれた飲み物を飲んだら体調が悪くなったの。あれは、あなたのせいよね？」
「あら？そうだったかしら？あの日のことはよく覚えてなくて……そういえば、フレデリック様がお姉様のことを酷く心配してらしたけど、大丈夫でした？」
「……問題なかったわ。すぐにフレデリック様が駆けつけてくれたから」

　メリッサの眉がピクリと動く。

「そうですか、それは良かったですね」

　にっこりと微笑むが、やはり張り付いたような笑顔だ。自分の知っているメリッサではない、どこか違和感を感じてアリシアは胸が苦しくなる。

（メリッサ、一体何を考えているの？）

「ねえ、メリッサ。どうしてそんなにフレデリック様にこだわるの？あなたにとってフレデリック様は大切な存在なのかもしれない。でも、だからってあんなことをするなんて……」
「お姉様が悪いのよ、フレデリック様だけは譲ってくださらないんですもの。今まではなんでも譲って下さったのに！」
「それは……譲れるものだけではなく、譲れないものだってあるわ。あなただってわかっているはずでしょう」

　アリシアの言葉にムッとするメリッサ。アリシアとメリッサが無言のまま見つめあっていると、突然違う声が聞こえてきた。

「そんなに執拗にアリシアに対して嫌がらせのようなことまでするのは、メリッサがアリシアの実の妹ではないということが関係しているのか？」

　不意に、部屋の影からフレデリックが現れる。背後から、フレンも現れた。

「……！どうしてお二人がここに？ひどいわお姉様。お二人に私のこと言ったのね？絶対誰にも言わないって約束したくせに！」

　カッとなってメリッサが声を荒げる。

「フレデリック様は婚約者、夫になる方よ、秘密にし続けることなんてできないわ。フレン様は……フレデリック様の一番信用のおける方だと思うから……」
「へえ、そうですか。フレデリック様たちもどうせ私のことを聞いて、あの家にふさわしくないとお思いなんでしょう？」
「そんなことない。俺もフレンも別にそんなふうに思ったりしない。アリシアだってメリッサのことを本当に大切に思ってるんだ。それなのに」
「あなたたちに私の気持ちなんてわかるはずない」

　ぎゅっとドレスを掴んでメリッサは静かにつぶやいた。