「さっきお姉さまに渡した飲み物に、媚薬を入れておいたの。今お姉さまと一緒にいるのはフレン様でしょう。媚薬でトロトロになったお姉さまを前にして、フレン様が理性を保っていられるとは思えないもの」

 踊りながら嬉しそうにそう言うメリッサを、フレデリックは唖然として見つめた。

「そうなったら、フレデリック様もさすがにお姉さまと婚約を解消なさるでしょ?しなくても、私がお姉さまとフレン様の関係を広めてしまえば、ね。解消せざるを得なくなると思うの」
「その減らず口を今すぐ止めろ」

 フレデリックはそう言って、ダンスを踊りながら少しずつホールの中央から逸れ始めた。そして、人気のない壁際まで到達すると、ダンスを止めた。

「いいか、アリシアの妹だからホールの真ん中に放置することはしない。アリシアに迷惑がかかるようなことだけは避けたいからな。だが、お前はしてはいけないことをした。いいか、二度と俺とフレンの前に姿を現すな。お前がアリシアの妹でなければ、どんな手を使ってでも殺していたぞ」

 地を這うようなドスの効いた声で、フレデリックは言い放つ。メリッサを見下ろす顔は夜叉のように恐ろしく、メリッサはひっと小さく悲鳴をあげた。

 その場にメリッサを放置して、フレデリックは急いでアリシアを探しに屋敷内を駆け回ったのだった。





「フレ、デリック、様……苦し、いの、お願い、助け、て」

(この状況でよく耐えられたな、あの男。耐えていなかったらそれはそれでもちろん許さないけど)

 潤んだ瞳を向けられ、はあはあと荒い息遣いでそう言われたフレデリックは、もはや一刻も猶予もない理性をギリギリで保っていた。
 アリシアを楽にするのは自分ではなくフレデリックだと言ったフレンを、珍しくほめてやりたいくらいだ。それほどまでに、今のアリシアの姿は煽情的かつ魅力的で欲をそそる。

「アリシア、すぐに楽にしてあげるよ。大丈夫だ、俺に全てを委ねて」

 そう言って、フレデリックはアリシアに口づける。唇が触れ合った瞬間、アリシアの体がビクッと震え、口から吐息が漏れた。角度を変えて何度も口づけると、アリシアから吐息と声が漏れる。唇を離すと、潤んだ瞳で荒く息を吐き、蕩けた顔をしたアリシアがいる。その顔を見た瞬間、フレデリックは襲い掛かりたい衝動にかられるがギュッと目を瞑って堪えた。

(これは俺のためじゃない、アリシアのためだ)

 欲望のままに襲ってしまいたい気持ちを抑えながら、フレデリックはまたアリシアに口づける。先ほどとは違うねっとりとした熱い口づけをしながら、フレデリックはゆっくりとアリシアの体に手を伸ばした。