「そんなに警戒しなくても、私はただお姉さまと仲直りしに来たんです。さっきは言いすぎました。ごめんなさい。私も、もう子供ではないのですし、わがままばかり言ってお姉さまを困らせてしまうのはやめます」

 はいこれ、と手に持っている料理とグラスを差し出した。

「お姉さまの好きそうなものを持って来たんですよ。もちろんこれもノンアルコールです。成人したといってもまだお酒は飲みなれていないでしょう?」
「メリッサ、ありがとう」

 アリシアの知る、いつもの可愛らしいメリッサに戻っている。ホッとして料理とグラスを受け取ると、アリシアはグラスを口にした。ほどよいリンゴの香りが鼻をかすめ、喉を心地よい冷たさが通っていく。シュワシュワと炭酸の気泡が浮き上がっていて、見た目にも綺麗だ。ダンスで緊張して喉が渇いていたので、飲み物を飲めるのはありがたい。

「フレデリック様にも、フレン様にも謝罪します。申し訳ありませんでした」

 おずおずとお辞儀をするメリッサにフレデリックは少しだけ表情を和らげたが、フレンだけは厳しい表情を変えなかった。

「それでお姉さま、最後にひとつだけお願いがあるんです」
「お願い?」

 アリシアが首をかしげると、メリッサはフレデリックを見る。

「フレデリック様と、一回だけ躍らせてほしいんです。これで最後、もう二度とお姉さまたちを困らせるようなことはしません」

 両手を胸の前で握り締め、可憐な表情でアリシアを見つめる。アリシアは昔からメリッサのこの表情に弱い。庇護欲がそそられ、ついいいよと言ってしまいそうになるのだ。

「……わかったわ。メリッサを信じます」
「よかった!フレデリック様も、お姉さまが良いのなら問題ないですよね?本当にこれで最後ですから」
「……ああ、わかったよ」

 しぶしぶとフレデリックが頷くと、メリッサは嬉しそうにフレデリックの腕をつかむ。すると、ちょうどよく次の曲が流れ始めた。

(それにしても、なんだか熱くなってきたわ、空調がおかしいのかしら)

 なんとなく、体が火照ってきた気がする。さっき飲んだ飲み物はノンアルコールだと言っていたのでアルコールのせいではない。

「アリシア、どうかしたか?」

 アリシアの様子に気づいて、フレンがアリシアに近づく。すると、アリシアの心臓がバクバクと大きく動きは込めた。

「うっ」

 アリシアが胸を抑えてうつむくと、フレンが慌ててアリシアを覗き込み、驚愕する。アリシアは顔を赤らめて苦しそうに息をきらしていた。