メリッサとの話が終わり、会場に戻ると音楽が流れ始めた。周囲では独身の令息たちが令嬢へダンスを申し込んでいる。独身の令息令嬢にとって舞踏会は将来のパートナーを探す絶好の場所だ。

 ホールの真ん中では、舞踏会の主催者である上流貴族の夫婦が華麗に踊り始めた。パートナーの決まった令息令嬢たちもそれに続いて踊り始める。今回の舞踏会では独身の令息令嬢だけではなく、夫婦で招待されている貴族もいて、次々にダンスが始まった。

「俺たちも踊ろう、アリシア」

 フレデリックがそう言って、アリシアへ手を差し出した。

(フレデリック様と、婚約者としてダンスを踊るなんてすごく緊張する)

 あまりダンスが得意ではないアリシアはそっと片手を差し出すが、フレデリックに恥をかかせてしまわないかと一瞬ためらってしまう。だが、そんなアリシアの手をフレデリックは力強く取り、アリシアの耳元に顔を近づけた。

「大丈夫、俺にアリシアの全部を委ねてくれていれば問題ないよ。俺がちゃんとリードするから」

 そっと囁かれ、アリシアは赤面する。そんなアリシアの腰に片手を回して、フレデリックは踊り始めた。優しく、だが軽快なステップでアリシアは戸惑うが、確かにフレデリックがしっかりとリードしてくれている。だんだん楽しくなってきてアリシアの顔に笑顔が見え始めた。そんなアリシアを見て、フレデリックが嬉しそうに優しく微笑む。その微笑はアリシアを心底愛おしいと言っているようで、思わず胸がギュッとなった。

(楽しいけれど、よく考えたらフレデリック様とすごく密着してるし、何よりフレデリック様の表情が……)

 思わず赤面してうつむくと、音楽が終盤を迎える。ゆっくりとダンスが終わり、二人はフレンの元へ戻った。

「二人ともすごくお似合いだったぞ」
「当たり前だろ」

 フレンの言葉にフレデリックは満足そうに笑う。アリシアがフレンを見ると、フレンがアリシアを見てフッと微笑んだ。

「アリシア、昔からダンス苦手だったもんな。見ていて懐かしかったよ」
「未来の私も、ダンスは苦手なのですか?」
「そうだな、相変わらず得意ではない。でも俺としか踊らないから問題ないらしい」

 ククク、と何かを思い出して嬉しそうに笑うフレンを見て、アリシアは不思議な気持ちになっていた。目の前のこの男、現婚約者の未来の姿の男は、きっと心底妻に惚れているのだろう。もしかするとアリシアを見ながら、いつも未来のアリシアを思い浮かべているのかもしれない。そう思うと、ドレス屋に行った際、今のアリシアには大人っぽすぎると思ったフレンが選んだドレスにも合点がいった。

「フレン様は、奥様のことを本当に愛してらっしゃるのですね」

 ぽつり、とアリシアはいつの間にか言葉を口にしていた。本人もまさか言葉になって出ているとは思わなかったのだろう、ハッとしてフレンを見る。

「ああ、そうだよ。そしてそれはつまり、アリシア、君自身だ。そして、フレデリックがアリシアを心底愛しているってことでもある」

 フレンが微笑みながらそう言うと、フレデリックも力強くうなづいた。二人の真っすぐな熱い視線に、アリシアは身体中の体温が一気に上昇するのを感じた。

「お姉さま」

 三人で見つめ合っていると、突然声がする。メリッサが片手に料理、片手にワイングラスを持って近づいてきた。

「メリッサ……」

 フレンとフレデリックがアリシアを守るようにして立つと、メリッサは悲し気に微笑む。