「なんだよこれ」

 そう言いながらフレデリックは手紙をぐしゃりと握りつぶした。

「俺はアリシアへの態度をあからさまにしているつもりはない、むしろ誰にも分られないよう細心の注意を払っているつもりだ」

 フレンはフレデリックを見てはっきりとそう言った。フレデリックの遠い親戚でアリシアの護衛、ただそれだけの存在としてこの時代にいる。アリシアとの関係も、アリシアへ対する思いも、今まで誰にも気づかれず、指摘されることもなかった。

「メリッサにはそれがわかったということか……それとも、ただ単にあんたをそういう存在に仕立て上げたいだけなのか」
「どちらにしても、胸糞悪い話だ。どうしてこうまでしてメリッサはお前に、俺に執着するんだ」

 純粋な好意というレベルではない、もはや理解しがたいメリッサの行動にフレンもフレデリックも神妙な面持ちになる。

「とにかく、それで未来のアリシアの身に危険が及ぶなんて絶対に許せない。どうすれば阻止できる」
「アリシアの妹だからと気をつかいすぎたのかもしれないな。はっきりと断ってはいたが、もっと厳しく対応すべきなのかもしれない」

 フレンの言葉に、フレデリックは真剣な顔で静かにうなずいた。

「そういうわけで、俺も一緒に舞踏会へ出ても問題ないな?」
「……ああ、出ないわけにはいかないだろう。メリッサへの対応もしなきゃいけない。アリシアに話しかけることも、今後は良しとするよ」
「いいのか?」

 意外そうな顔でフレンがそう言うと、フレデリックはじっとフレンの瞳を見つめる。

「嫌だけど、仕方ないだろう。あんたは俺で、俺はあんただ。でも、今のアリシアは渡さない。未来のあんたが未来のアリシアと相思相愛なのはいいことだけど、今のアリシアの婚約者はこの俺だ。それをちゃんと念頭にいれて行動してくれ。二度とアリシアにあんな表情をさせるな。そうしていいのは、俺だけだ」
「……ああ」

 キッとフレンを睨みつけるフレデリックの顔は、この前よりも幾分か男らしくなった気がする。フレンは口の端に弧を描いて静かに返事をした。