「フレデリック様、フレン様のことはもう良いのではないですか?本人も反省していますし」
「だめだ。アリシアにあんな顔させるなんて許せない」

 アリシアの言葉を遮るようにしてそう言うと、フレデリックは真顔で紅茶を一口飲む。

(美味しい紅茶のはずなのに、まるで味がしない)

 アリシアも紅茶を口にするが、心地よいと思える香りも、心がほぐれるような美味しい味も、今日は何も感じられない。

 フレデリックの部屋にいるのは、フレデリックとアリシアの二人だけだ。アリシアに近寄るなとフレデリックに言われたフレンは、自室に戻ったようだ。

 いつもはフレデリックとフレンに挟まれているアリシアだが、そばにいるはずのフレンがいない。

(二人に挟まれていつも心が騒がしかったし困っていたけれど、いないならいないでこんなに寂しい気持ちになるなんて)

 いつだって余裕そうにアリシアを揶揄い、フレデリックに怒られることさえも楽しんでいるようなフレン。アリシアが不安な時は必ずそばにいてアリシアの不安が消えるように尽力してくれる。自分たちよりも大人だからこその行動なのだろうと思っていたが、そんな大人なフレンが理性を崩しそうになるなんて、よっぽどのことだったのだろう。

(何が悪かったのかしら。ただ選んでもらったドレスを試着しただけだったのに)

 確かにあのドレスはセクシーすぎると思った。でも、それだけでフレンがあんな風になってしまうものなのだろうか?むしろセクシーすぎて自分には不釣り合いだとさえ思ったのに。
 紅茶を飲む手が止まり、じっとティーカップの中を神妙な顔で見つめるアリシアを見て、フレデリックはぎゅっと拳を握る。そして、静かに席を立ってアリシアの隣に座った。
 急に隣に来たフレデリックに気づいてアリシアはフレデリックを見る。フレデリックの顔は、何かに怒るような、耐えるような、あまりにも複雑な表情をしていた。