「アリシアにはちゃんと安心してほしい。心の底からフレデリックを、俺を信頼して幸せでいてほしいんだ」

 フレンの大きな手はアリシアの手をすっぽりと覆い隠している。その温かい感触に思わずドキッとしてフレンを見ると、フレンの眼差しもまた力強く、その視線にまた胸が高鳴ってしまう。

(どうしよう、フレデリック様に手を握られた時もドキドキしたけど、フレン様の手も大きくてドキドキしてしまう)

 同一人物なはずなのに、二人に翻弄されてしまう自分にアリシアは戸惑っていた。

「アリシア、抱きしめてもいいか?」
「……え?」

 フレンの突然の言葉にアリシアが驚いて小さく声を上げると、フレンはじっとアリシアを見つめて言った。

「すごく抱きしめたいんだ。今俺がこんなこと言うのは違うんだろうけど、それでも不安になっているアリシアを抱きしめて、安心させたい。俺が愛しているのはアリシアただ一人だってわかってほしいんだ。アリシアの不安を少しでも和らげたい。ダメか?」

 焼けるような熱い視線に絡み取られているようでアリシアは身動きが取れない。声を出したいのに、どう返事をしていいかわからないほどアリシアは混乱していた。

 無言でフレンを見つめるアリシアに、フレンはそっと近寄り、手を広げてアリシアを包み込む。フワッとフレンの良い香りがアリシアの鼻をくすぐる。ほんのりと伝わる体温、男らしい体つきに、家族以外の異性に初めて抱きしめられたアリシアはクラクラしてしまった。
 抱きしめる力加減の優しさからフレンのアリシアを大切にする思いが伝わってくるようで、アリシアは思わずフレンの胸の中で目を瞑る。

「アリシア、入ってもいいかな」

 コンコンとドアのノックする音がして、フレデリックの声が聞こえた。驚いてアリシアはフレンから離れようとするが、フレンは腕の力を弱めずにアリシアを抱きしめたままだ。

(どうしよう、フレデリック様に見られてしまう)

 フレンとフレデリックはそもそも同一人物なので、別に悪いことをしているわけではない、はずだ。それでもアリシアはなぜか焦って身を捩るが、フレンは絶対に腕を解いてくれない。

「フ、フレン様、離してください」
「だめだ」

 アリシアの耳元でフレンが静かに告げる。いつもの少しおちゃらけたような明るい声ではなく真面目な低い声にアリシアは体の奥から何かが這い上がってくるような感覚になり心臓が一層高鳴ってしまう。

「アリシア?入るよ?」

 返事がないことを不思議に思ったフレデリックが部屋に入り、目の前の光景に目を見張る。そこには、フレンの腕の中にいるアリシアの姿があった。

「お前!何をしている!」