「よかった、少しは元気になったみたいだな」
「……すみません、心配をおかけしてしまったみたいで」

 フレンと目を合わせてそう言うアリシアを見てフレデリックは少し苛ついた表情を見せるが、すぐに心配そうにアリシアに話しかけた。

「アリシア、何かあるならちゃんと言ってほしい。俺たちはこれから夫婦になるのに、隠し事はしてほしくないよ。それに、フレンが何か知っているのに俺は何もわからないなんて耐えられない」
「だったら自分の胸に手を当てて聞いてみろ」
「何だと!さっきから何なんだよあんた!」
「いい加減にしてください!」

 またフレデリックとフレンの言い合いが始まりそうになり、アリシアは思わず声を上げた。二人はアリシアを見てまたシュンとうなだれる。

「本当にごめん。でも、お願いだ、君の口から聞かせてほしい。言ってくれるまでこの手は離さないよ」

 アリシアの両手を静かにとって、フレデリックはアリシアの瞳をじっと見つめる。フレデリックにそう言われてしまえば、アリシアもどうすることもできない。アリシアは深呼吸をしてからそっと口を開いた。

「……メリッサと、何を話してらっしゃったんですか?」
「え?」

 アリシアの問いに、フレデリックは目を丸くしている。

「メリッサと、とても仲が良さそうだったので……。それに二人だけでヒソヒソと話をするなんて何かあるんじゃないかと」
「何もないよ。メリッサにはただ君のことをよろしく頼むと言われただけだ」

 フレデリックは優しく微笑んでそういうが、その微笑みはどこかぎこちないように思えてアリシアの胸には薄暗い靄がかかったままだ。

(私のことをよろしく頼むと言うだけなら、何も二人きりにならなくてもいいはずなのに)

「アリシア、僕のことが信じられない?」

 フレデリックはそう言いながらアリシアの両手を少しだけ強く握り締める。

「信じられないわけではないのです。ただ、……不安で」
「不安になんてならないで。君の兄上にも言ったけれど、僕が愛しているのはアリシア、君だけだよ」

 そういうフレデリックの瞳にはどこにも嘘が見当たらない。この言葉はきっと本心なのだろう、それでも、アリシアの心には何かが引っかかって仕方がなかった。

「……わかりました。何もなかったと信じます」

 アリシアがそう言って微笑むと、フレデリックはホッとしたのだろう、嬉しそうに笑顔を向ける。そんなフレデリックの笑顔を、アリシアの背中越しにフレンが冷ややかな瞳で見つめていた。