「ほらこれ。アリシアの好物だろ」

 フレンがしおらしくなりながらおもむろに目の前のケーキを差し出す。それは生クリームとイチゴの一口サイズのプチケーキだった。他にもさまざまな種類のプチケーキやクッキー、マカロンなどが目の前のテーブルに並んでいるが、一番好きなものを言い当てられている。

(どうして、わたしの好きなものを知ってるの?)

 少し驚いた顔でフレンを見つめると、フレンはフッと嬉しそうに微笑んだ。

「どうして知ってるの、って顔してるな。当たり前だろ、俺はアリシアの未来の夫だ。アリシアの好物も嫌いなものもなんでも知ってる」

 そうだった、この人は自分の未来の夫だった。信じられないことだが、さまざまな事柄がそれを証明している。ジッと目の前に差し出されたケーキを見つめていると、隣から手が伸びてきてそのケーキにフォークが突き刺さる。

「……これが好きだとは知りませんでした。はい、どうぞ」

 フレデリックが掴んだフォークを静かに上げて、ケーキをアリシアへ向ける。

(え?どうぞ?)

 どういうことだろう。アリシアがきょとんとした顔をすると、フレデリックは真顔でアリシアの口元にケーキを持っていく。

(まさか、あーん、てこと!?)

 アリシアがフレデリックの顔を凝視すると、フレデリックは静かにうなずいた。食べるまでこの手はおろさないと言わんばかりの顔だ。

(え、ええええ)

 さすがにずっとこのままでは困る。戸惑いながらも、アリシアは静かに口を開けてケーキを頬張った。そんなアリシアの姿を、フレデリックは少し顔を赤らめながらも見つめている。そしてそんな二人をフレンはやれやれといった顔で眺めていた。

「美味しいですか?」

 フレデリックに聞かれてアリシアはうなずくと、フレデリックは嬉しそうに微笑む。

「俺は何を見せられているんだか。若いころの俺だから俺ってことではあるけど、なんかすげぇムカつくな」

 腕を組みながらはぁ、とため息をついてフレンが言う。その顔はやはり少し不満げだ。対照的に、フレデリックは嬉しそうな勝ち誇ったような顔をしている。

(口調も性格も対照的で同じ人物だとは思えなかったけれど、でもこうしてみるとやっぱり根本的なところは似てるのね)

 それにしてもこの状況が一体いつまで続くのだろうかと、アリシアは二人を見ながら心の中で小さくため息をついた。