カイエンの近衛騎士団に護衛され、グラーヴェン村に到着したエリアーナは、その異様な光景に言葉を失った。
村の広場には姉リリアーナを中心に人だかりができており、彼女はまるで本物の聖女のように、病に苦しむ人々の額に手を当て、祈りを捧げている。村人たちは涙を流し、彼女の足元にひれ伏していた。
その輪の中に、エリアーナの姿を認めた一人の村人が叫んだ。
「魔女だ!国を追われた魔女が、聖女様の邪魔をしに来たぞ!」
その声が呼び水となり、これまでリリアーナに感謝と祈りを捧げていた村人たちの目が、一斉に憎悪と侮蔑の色を帯びてエリアーナへと突き刺さる。
「出ていけ!」
「お前のような罪人が、聖なるこの村に来るな!」
石礫さえ飛んでくる中、ギデオンと騎士たちが、エリアーナを守るように盾を構えた。
「まあ、エリアーナ。なんて可哀想に……。公爵様をそそのかし、こんな場所まで来てしまったのね」
リリアーナは、悲劇のヒロインを演じるように眉を下げ、エリアーナに歩み寄る。その慈愛に満ちた仮面の下で、瞳の奥が勝利の喜びに歪んでいるのを、エリアーナは見逃さなかった。
「姉様。その茶番は、もうおやめなさい」
エリアーナは、毅然とした態度で言い放った。
「あなたの配っているそれは、薬ではない。生命力を前借りさせるだけの劇薬よ。あなたは、この村人たちを救っているのではない。緩やかに、殺しているのよ」
「……何を言うのです!この娘は、聖女様への嫉妬で、頭がおかしくなってしまったのだ!」
村の長老らしき男が、怒りに震えながら叫んだ。
彼には、数年前に最愛の妻を、当時流行った原因不明の病で亡くした過去があった。医師も匙を投げ、ただ衰弱していく妻の手を握ることしかできなかった、あの無力感。それが、彼にとって最大のトラウマだった。
『もう二度と、大切な者を、何もできずに失うものか』
その強い思いが、藁にもすがるように、奇跡を謳うリリアーナへの盲信へと繋がっていた。エリアーナの「論理」は、彼にとって、ようやく掴んだ希望を奪い去ろうとする、悪魔の囁きにしか聞こえなかったのだ。
村人たちの敵意は最高潮に達し、騎士団との衝突も時間の問題と思われた、その時。
エリアーナは、声を張り上げた。
「信じられないのなら、証明しましょう!」
彼女は、リリアーナと、村長クラウスをまっすぐに見据えた。
「あなたが見捨てた患者を、あるいは、あなたの薬でもうこれ以上回復しない、最も重い症状の患者を、一人だけ私に預けなさい。この場で、私が、私の錬金術で、その方を完全に治してみせます。もし、それができなければ、私はこの場でいかなる罰でも受けましょう。――その代わり、もし私が成功したなら、あなたの偽りを、この村人全員の前で認めていただく」
それは、錬金術師としての、そして一人の人間としての、魂を懸けた宣誓だった。
かつて、誰にも認められず、ただ黙って才能を奪われるだけだった少女は、もういない。
リリアーナは、一瞬ためらった。だが、村人たちの自分への熱狂的な視線と、エリアーナへの憎悪を確信すると、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「いいでしょう。あなたのその、傲慢な自信を、へし折って差し上げますわ。――クラウス。あなたの孫娘、アンナをこの魔女に」
その言葉に、クラウスの顔が絶望に染まる。彼の孫娘アンナは、村で最も重い症状で、リリアーナの薬も、もはや効かなくなっていた。
エリアーナは、その絶望を一身に受け止めながら、静かに頷いた。
もう、後戻りはできない。
この村の絶望、姉の偽善、そして自らの過去。そのすべてを、この一度の調合に懸けるのだ。
村の広場には姉リリアーナを中心に人だかりができており、彼女はまるで本物の聖女のように、病に苦しむ人々の額に手を当て、祈りを捧げている。村人たちは涙を流し、彼女の足元にひれ伏していた。
その輪の中に、エリアーナの姿を認めた一人の村人が叫んだ。
「魔女だ!国を追われた魔女が、聖女様の邪魔をしに来たぞ!」
その声が呼び水となり、これまでリリアーナに感謝と祈りを捧げていた村人たちの目が、一斉に憎悪と侮蔑の色を帯びてエリアーナへと突き刺さる。
「出ていけ!」
「お前のような罪人が、聖なるこの村に来るな!」
石礫さえ飛んでくる中、ギデオンと騎士たちが、エリアーナを守るように盾を構えた。
「まあ、エリアーナ。なんて可哀想に……。公爵様をそそのかし、こんな場所まで来てしまったのね」
リリアーナは、悲劇のヒロインを演じるように眉を下げ、エリアーナに歩み寄る。その慈愛に満ちた仮面の下で、瞳の奥が勝利の喜びに歪んでいるのを、エリアーナは見逃さなかった。
「姉様。その茶番は、もうおやめなさい」
エリアーナは、毅然とした態度で言い放った。
「あなたの配っているそれは、薬ではない。生命力を前借りさせるだけの劇薬よ。あなたは、この村人たちを救っているのではない。緩やかに、殺しているのよ」
「……何を言うのです!この娘は、聖女様への嫉妬で、頭がおかしくなってしまったのだ!」
村の長老らしき男が、怒りに震えながら叫んだ。
彼には、数年前に最愛の妻を、当時流行った原因不明の病で亡くした過去があった。医師も匙を投げ、ただ衰弱していく妻の手を握ることしかできなかった、あの無力感。それが、彼にとって最大のトラウマだった。
『もう二度と、大切な者を、何もできずに失うものか』
その強い思いが、藁にもすがるように、奇跡を謳うリリアーナへの盲信へと繋がっていた。エリアーナの「論理」は、彼にとって、ようやく掴んだ希望を奪い去ろうとする、悪魔の囁きにしか聞こえなかったのだ。
村人たちの敵意は最高潮に達し、騎士団との衝突も時間の問題と思われた、その時。
エリアーナは、声を張り上げた。
「信じられないのなら、証明しましょう!」
彼女は、リリアーナと、村長クラウスをまっすぐに見据えた。
「あなたが見捨てた患者を、あるいは、あなたの薬でもうこれ以上回復しない、最も重い症状の患者を、一人だけ私に預けなさい。この場で、私が、私の錬金術で、その方を完全に治してみせます。もし、それができなければ、私はこの場でいかなる罰でも受けましょう。――その代わり、もし私が成功したなら、あなたの偽りを、この村人全員の前で認めていただく」
それは、錬金術師としての、そして一人の人間としての、魂を懸けた宣誓だった。
かつて、誰にも認められず、ただ黙って才能を奪われるだけだった少女は、もういない。
リリアーナは、一瞬ためらった。だが、村人たちの自分への熱狂的な視線と、エリアーナへの憎悪を確信すると、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「いいでしょう。あなたのその、傲慢な自信を、へし折って差し上げますわ。――クラウス。あなたの孫娘、アンナをこの魔女に」
その言葉に、クラウスの顔が絶望に染まる。彼の孫娘アンナは、村で最も重い症状で、リリアーナの薬も、もはや効かなくなっていた。
エリアーナは、その絶望を一身に受け止めながら、静かに頷いた。
もう、後戻りはできない。
この村の絶望、姉の偽善、そして自らの過去。そのすべてを、この一度の調合に懸けるのだ。
