なのに、なんでこうなるかな……。
私は横目で兄と加奈さんを盗み見る。
せっかく急いで観覧車に来たのに、結局、兄たちと合流するはめになってしまった。
思いのほか混雑していて、結局は四人そろって列に並ぶことになった。
肩が触れそうな距離で笑い合う二人を見て、胸の奥がざわついた。
「きゃっ」
不意に加奈さんが足をもつれさせ、兄の肩にもたれかかる。
「おい、大丈夫か?」
兄がとっさに腰へ手を添え、そっと支えた。
「ええ……咲夜くん、ありがとう」
加奈さんがほんのり頬を染め、兄を見上げる。
その視線と、兄の優しいまなざしが重なる瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
耐えきれず、視線を逸らす。
「あ、唯さん。あれ見てください」
呼びかけられて顔を上げると、流斗さんが何かを指さしていた。
その先では、遊園地名物の大きなキャラクターが子どもたちに風船を配っている。
「あの風船欲しいですか? 取ってきましょうか」
流斗さんが優しく微笑みながら言う。
――なに言ってるの?
私は思わず首を傾げた。
子ども扱いされているみたいで、ちょっと恥ずかしい。
「べ、別に欲しくありませんよ。子どもじゃないんですから」
私がぷくっと膨れたように言うと、彼は口元をほころばせる。
「そうですか? 唯さん可愛いから、欲しいのかなあと思って」
「それ、どういう意味ですか?」
慌てて問い返すと、流斗さんは肩を揺らし、明るく笑った。
「ははっ、すみません」
からりとした笑顔を見て、ふと思う。
流斗さんがこんなことを言うなんて、ちょっとびっくり。
でも、すぐにわかった。
私が風船なんて欲しがると思っていない。
落ち込んでいるのを気づかって、楽しい話題を振ってくれたんだ。
そんなに辛そうな顔をしていたのかな……。
彼には私の気持ちなんて、透けて見えているのだろうか。
流斗さんって優しい人だな。
彼のことを好きになれたら、どんなにいいだろう。
でも……。
私は流斗さんから兄へと視線を移す。
加奈さんと話している兄の姿。
なんとなく、楽しそうに見えてしまう。
また勝手に傷つく。
想いを伝えることさえできないこの気持ち。
切なくて、苦しくて――。
二人から逃げるように、そっと目を伏せた。
