店員が料理を運んできて、私たちは昼食を取りはじめた。
「うまい! ほら、唯も食べてみろよ」
オムライスをスプーンですくった兄が、自然な流れで私の口元に差し出してくる。
ちょっと待って。これって……。
「あーん」
やっぱり!
「ちょっと、こんな公衆の面前で、しかも加奈さんもいるのに」
慌てて兄を叱りつける。
「なんだよ、いいだろ別に。いつも家ではしてるだろ?」
平然と言ってのける兄に、私は口を開いたまま固まってしまった。
いつも? それは、極まれに、の間違いでしょ!
確かに、兄はときどき、からかうみたいに『あーん』をしてくる。
でも、それは家での話で、こんな人前でしたことなんてない!
しかも今は、お互い恋人が目の前にいるんだよ?
非常識にもほどがある。
私は怒りを込めて兄を睨みつける。
「へー、仲いいんだね。仲いいとは知ってたけど、ここまでとは……」
流斗さんが感心したように微笑む。
これが大人の余裕ってやつなのか。
流斗さんはやっぱり心が広いなあ。……って、感心してる場合じゃない!
私は加奈さんへと視線を送る。
すると彼女は鋭い目つきでこちらを見ていたが、目が合った途端に、ぱっと笑顔を見せた。
「ふふっ、仲いいのね。咲夜くんは本当に妹さんが可愛くて仕方ないんだから」
と、大人の余裕を見せてくる。
え? 意外と大丈夫なのかな?
私だったら、たとえ妹でも、あーんされてるとこなんて見たくない……けど。
二人とも、大人なのかなあ。
「ほら、大丈夫だろ? はい、あーん」
兄が満面の笑みでオムライスを差し出してくる。
「あ、あーん……」
流されるまま、私は兄の持つスプーンを口に運んだ。
は、恥ずかしい――でも、美味しい。
もぐもぐと味わっていると、三人の視線が突き刺さる。
兄は嬉しそうに私を見つめ、流斗さんは穏やかな笑みのまま。
加奈さんはどこかぎこちない笑顔で視線だけが鋭い。
すごく緊張する。
どうして私、こんなに緊張しながらご飯食べなきゃいけないの!
