そのとき、ふと気配を感じて顔を上げると――

「お待たせしました」

 流斗さんが戻ってきた。

「どこへ行ってたんですか?」

 問いかけると、彼は穏やかな笑みを浮かべて、メニューをそっと差し出す。

「はい、どうぞ」

「わざわざありがとうございます」

 メニューを開きながら、そっと微笑む。

 さっき姿を消したのは、これのためだったのか。
 ほんと気が利くなあ、流斗さん。
 ……兄と違って。

 そう思いながら兄を見ると、平然と私の持つメニューを覗き込んできた。

「お! オムライスあるじゃん。唯、頼むのか?」

「まだ決めてないよ」

 私と兄が一緒にメニューを眺めていると、流斗さんと加奈さんは二人でメニューを開いていた。

 流斗さんは、席のことについて何も言わなかった。
 きっと、兄が強引に私の隣に座ったって、ちゃんと気づいてる。

 なのに、あくまで穏やかにふるまってくれて――
 その大人な対応には、毎度のことながら感心しちゃう。