遊園地の中は、どこを見ても人であふれ返っていた。

 前も右も左も、人、人、人。

 人波をよけるだけで精いっぱいの私。
 いま頼れるのは、流斗さんが握るこの手だけ。

「はぐれないように、手を離さないでくださいね」

 私の不安を察してか、流斗さんが優しく微笑みながら、手をぎゅっと握りなおしてくれた。

「流斗さん……」

「ん?」

 優しい声で聞き返されると、なんだか恥ずかしくてまともに顔が見られない。

「おい、おまえら、こんな道の真ん中でいちゃついてんじゃねえよ」

 不機嫌そうな声が飛んできた。
 いつの間にか兄がすぐ傍に立っていて、私たちの顔を交互に睨みつけてくる。

 ――そうだった。お兄ちゃんと加奈さんも一緒だったんだ。
 すっかり忘れてた。

「ああ、ごめん。咲夜だって彼女といちゃついてくれていいですよ」

 流斗さんが余裕の笑みを浮かべる。

「なっ、お、おまえなあ……」

 兄が何か言い返そうとした、そのときだった。
 加奈さんが兄の手をそっと握った。

「あの……私も手、繋ぎたい」

 上目遣いで兄を見つめる加奈さんは、恐ろしいほど可愛かった。
 この子に落ちない男なんているんだろうか。思わずそう思ってしまうほどに。

「え? ああ、うーん。前にも言ったけど、俺、手つなぐの嫌いなんだよな」

 嘘……そんなわけない。
 私は兄の表情を確かめるように、じっとその顔を見つめた。

 何言ってんの? 私とよく手を繋いでるじゃない!

 加奈さんは悲しげにうつむいてしまう。

「ちょっと、お兄ちゃん。女の子が勇気出して言ったんだから、そんなふうに断っちゃダメだよ。
 加奈さん、ごめんね。兄はデリカシーがないから」

 私は加奈さんの顔をのぞき込む。
 潤んだ瞳が向けられ、ふいに目が合った。

 泣いて……いたのかな。

「ううん。唯ちゃんが謝ることじゃないよ。ありがとう」

 加奈さんが可愛いらしい笑顔を見せてくれて、ほっと胸をなでおろす。