「いってきまーす」
父と母に見送られながら、玄関の扉を開けた。
そのすぐあとを、兄も続く。
仲良く並んで手を振る両親の姿を見て、ふっとため息がもれた。
……ほんとに、仲がいいんだから。
父は朝はゆっくりめの出勤。
さすが大物は違う。
そう、父は実は……まあ、それはまた今度。
母は今どき珍しい専業主婦。
まあ、あのふんわり天然美少女に仕事が務まる気はしないけど。
そんなふうにぼんやり考えていたら、家を出たところで誰かとぶつかった。
「きゃっ、ごめんなさい!」
制服姿の女子高生が、あわてて頭を下げてくる。
ぶつかったのは、どうやら同じ学校の生徒らしい。
彼女の視線は、まっすぐ兄に向けられていた。
そのまなざしは熱を帯びていて、まるで恋する瞳のように輝いている。
「唯、大丈夫か?」
倒れかけた私を支えながら、兄が顔を覗き込んできた。
「う、うん。平気」
そう答えながらも、突き刺さるような視線を痛いほど感じていた。
その女生徒から向けられる、激しい嫉妬の炎。
「あ、あの……おはようございます」
頬を染めながら、彼女はじりじりと兄に近づき、小さな包みを差し出した。
「これ、受け取ってくださいっ」
無理やり兄に押しつけると、そのまま駆け出していく。
みるみる小さくなっていく背中が、必死で、なんだか可愛い。
どうやら兄にプレゼントを渡したくて、わざわざ家の前で待っていたらしい。
朝早くから、ご苦労なことだ。
……というか、わざわざ家の前まで来るなんて。
学校でも渡せるでしょうに。
でも、正直これくらいは日常茶飯事だった。
兄は慣れた様子で包みを鞄にしまい込み、私の視線に気づいてにやっと笑った。
「なに? 欲しいの?」
「いらないよ!」
ぷいっとそっぽを向くと、兄はおかしそうに笑って歩き出す。
……なんだか、ムカムカする。
いつものように頬を膨らませ、私は兄のあとを追いかけた。
