……というのが、せっかく昼間に唯に戻ったのに、また優になった経緯。
あのあと、流斗さんの背に隠れながら、私は急いで家へと駆けこんだ。
だって道端で急に変身しちゃうだもん。ほんと焦ったよ。
まあ、なんとか誰にも見つからずに帰ってこれたけどね。
さすがに、白昼堂々、スカート履いてる男子がいたら問題でしょ。
私はそっと、兄の様子を窺った。
母の料理を夢中で頬張る姿が、なんだか無邪気で微笑ましい。
そんな兄と、ふいに視線が合う。
「なに。唯、俺に見惚れてどうした」
「はあ? 見惚れるわけないでしょっ!」
照れ隠しに顔を背ける。
……流斗さんとのこと、言いそびれてしまった。
いや、言えなかった。
パッと言ってしまえばいいのに、なぜか口が重い。
兄がどう思うか、気になってしまうのだ。
もし「ふーん」とか興味なさそうにされたら、それはそれでショックだし。
私のこと、何とも思ってないってことになる。
まあ今は両親もいるし、言いにくいんだ。
そうだ。そういうことにしておこう。
心の中で言い訳を探しているうちに、あっという間に夜はふけていった。
ソファーから立ち上がった兄が、大きく伸びをしながら私の方を振り返る。
「おやすみ〜。唯、おまえももう寝ろよ。夜更かししてると肌荒れるぞ」
「わ、わかってる」
あっかんべーをすると、兄も同じようにあっかんべーを返してくる。
はあ……なんでいつもこうなるの。
素直になれない私。
結局、今日は言えなかった。
肩を落としつつ、私は両親に挨拶して、自室へと向かった。
