「えーーー!? なんでそうなるんですか!?」
思わず声が裏返る。
「まあまあ、落ち着いて。
別にいいじゃない。咲夜も彼女いるんだし、唯さんに彼氏がいたって。
それに、変身のことを知ってる僕が側にいた方が安心でしょう?
彼氏として側にいれば、いつでも助けることができる。
僕は咲夜の親友だし、信頼も厚い。
これだけ揃ってる男は、僕以外いないと思うけど。どうかな?
唯さんって、彼氏いたことないでしょ。
一度、試しに付き合ってみない?」
いつもの柔らかな笑顔を崩さず、淡々と語る流斗さん。
私はぽかんと口を開けたまま、話に耳を傾けるしかなかった。
お、お試しって……そんな簡単に恋人って決めていいの?
なんだか流斗さんのペースに巻き込まれている気が、しなくもないけど。
でも、たしかに私は、今まで誰かと付き合ったことなんてなかった。
……それは、間違いなくお兄ちゃんのせい。
兄以上に素敵だと思える人に出会えず、誰のことも好きになれない。
そして、兄への気持ちも捨てきれず、悶々と過ごす日々。
もしかして、これはいいきっかけになるのでは?
流斗さんなら、容姿も人柄もすべて申し分ない。
私にはもったいないくらいの人だ。
そんな人がお試しで付き合おうと言ってくれている。
こんなチャンス、もう二度とないかもしれない。
考えれば考えるほどわからなくなっていく。
でも、単純な私は、つい浅はかな考えに行き着いてしまう。
「そう……ですね。流斗さんがそうおっしゃってくれるなら。
一度、お試しでお願いできますか?」
つい、口にしてしまった。
「本当!?」
流斗さんはぱっと顔を輝かせ、驚くほど無邪気な笑顔を浮かべた。
普段の落ち着いた雰囲気とはまるで別人。
こんな表情の流斗さん、初めて見たかもしれない。
私は少し戸惑いながらも、そっと頷いた。
「嬉しい、ありがとう!」
そのまま、流斗さんは私をふわっと抱きしめた。
その数秒後――私は優に変身してしまった。
