「おはよう、お父さん。あ、寝癖ついてるよ」

 くすっと笑いながら、父の髪に手を伸ばす。

「ああ、ありがとう」

「おまえも寝癖ついてるぞ」

 いつのまにか背後に来ていた兄が、ぼそっと言った。

「えっ!? 嘘、さっき直したのに!」

 慌てて髪を整えると、兄はニヤリと笑う。

「嘘だよ」

「なっ……!」

 睨みつけると、兄は知らん顔でさっさと席に着いた。

 もう、いつもこうだ。
 私をからかって、楽しんでいるんだから。

 ぷくっと頬を膨らませ、黙って兄の隣へ腰を下ろす。

 はあ……と息をつき、ふと目をやる。
 新聞を広げたまま、兄は黙って記事に目を通していた。
 その真剣な横顔が妙に格好よく見えて、つい見惚れてしまった。

 と、その視線がふいにこちらへ向く。
 目が合って、私はあわてて目をそらす。

 恥ずかしさをごまかすように、手にしていた牛乳を一気に飲み干した。

「唯、もう少しおしとやかに飲めよ」

 兄が余計なひと言を放つ。

「うるさいな。いいでしょ、別に」

「そうだな、元気な証拠だよ」

「そうねえ、唯ちゃんは何をしてても可愛いし」

 兄とは違って、父と母は私に甘い。
 ご機嫌取りではなく、本心からそう言ってくれているのがわかるから、素直に嬉しかった。

「さ、食べましょう」

 母の掛け声で、みんなで声をそろえる。

「いただきます」

 こうして、家族の楽しい朝食の時間が始まった。