結局、そのあと。
加奈さんは文句とも愚痴ともつかない言葉を次々と並べ立てた末に、兄をあっさりと連れ去っていった。
一見おとなしそうに見えるけど――案外、押しが強いのかもしれない。
兄は露骨に面倒くさそうな顔をしていたが、加奈さんの勢いには敵わなかったのか、そのまま素直に連行されていった。
静かになった屋上。
ぽつんと残された私は、ふと横に目をやる。
……ちょうどその瞬間、流斗さんと目が合った。
「さて、今日は僕が唯さんを送っていきますよ」
にこりと微笑まれ、戸惑う。
「え? そ、そんな、大丈夫です。一人で帰れます」
慌てて申し出を断った。
流斗さんにまで迷惑をかけるわけにはいかない。
今日は唯が休みということになっているから、このまま学校にいるわけにもいかない。
早めに帰ろうと思っていた。
本当なら、兄が無理やりにでもついてきたのだろう……しかし、現状それは無理だ。
それでも、だからといって流斗さんに頼る、という話にはならない。
「流斗さん、今日はありがとうございました。
私は一人で大丈夫ですので、心配しないでください。では」
そう言って一礼し、その場を離れようとした瞬間、腕を掴まれた。
「待って。僕も唯さんが心配なんだ。
きっと咲夜も、君を一人で帰したって聞いたら怒るよ。
僕なら大丈夫だから、送らせて?」
切なげなまなざしが、まっすぐ私を射抜く。
軽く言っているようで、その声はどこか必死だった。
そして――結局、押し切られる形で送ってもらうことになった。
