そこで、はっとする。
しまった、私、今男子のブレザー姿なんだっけ!
どうしよう。
緊張で喉が詰まりそうになる中、私はなんとか声を絞り出した。
「あ、はい。そうです。川野唯っていいます。あの……」
私がまごついていると、彼女がニコッと可愛い笑みを浮かべた。
「申し遅れました。私、咲夜くんの恋人の水梨加奈です。よろしくね」
……は?
あまりに無邪気な笑顔で放たれた、衝撃の自己紹介に、私は呆然と立ち尽くした。
兄に彼女がいることは知っていたけれど……実際に会うのは初めてだった。
こんなに可愛い子が、お兄ちゃんの彼女だなんて。
驚きと共に、胸の中が絶望感でいっぱいになる。
「咲夜くんったら、こんなに可愛い妹さん、どうして早く紹介してくれなかったのよ。
存在は聞いてたのに、なかなか会わせてくれなくて……ちょっと寂しかったんだからね」
そう言いながら加奈さんは頬を膨らませ、すっと手を差し出してくる。
握手……だよね?
私は緊張しながら、その手を取った。
「よろしくね、唯さん……ところで、その服装は趣味?」
にこやかにそう尋ねられ、私は一瞬で固まった。
「あ、えっと」
頭が真っ白になる。どうしよう――
「そ、そうなんだよ! こいつ、コスプレ……趣味でさ!」
兄がすかさず口を挟んだ。
「ふーん、そうなんだ。可愛い、似合ってるよ」
加奈さんは満面の笑みを向けてくる。
よかった。あまり気にしていないみたい。ちょっと変わった人だな。
――でも、なんでだろう。
その笑顔が、どこか息苦しい。
友好的なはずなのに、視線が妙に鋭くて、じわじわと胸が詰まるような気がする。
とりあえず笑顔を返したけれど……うまく笑えた自信はなかった。
