鼓動が落ち着き、ようやく呼吸が整ったころ――私はゆっくりと顔を上げた。
目の前には、兄と流斗さん。
二人とも、すぐそばにしゃがみこみ、心配そうに私を見つめていた。
そのとき、不意に兄の腕が私の体を包み込む。
「よかった! ……また元に戻れたんだな」
驚いて目を瞬かせながら、私は兄の腕の中からそっと見上げた。
真剣なまなざしがまっすぐにこちらを捉え、隣では流斗さんが微笑みながら小さくうなずいていた。
そっか……私、戻ったんだ。
ほっと息をついてから、ふと思う。
流斗さんの仮説、当たってるかもしれない。
今回も、戻るときの症状は前回とまったく同じ。
優になったときだって、二回とも似たような動悸があった。
まだ確証はないけれど、少しずつ手がかりが見えてきている。
そんなことを考えていた、そのときだった。
屋上の扉が、ガンッと大きな音を立てて開く。
「咲夜くん!」
甲高い声が響き、扉の向こうからひとりの女生徒が姿を現した。
一瞬で、場の空気が変わる。
彼女の姿を見た瞬間、兄の目が大きく見開かれた。
「加奈……」
