そして、やがて静かに口を開く。
「一つ、仮説が浮かんだんですけど、言ってもいいですか?」
私は身を乗り出して、真剣に頷いた。
「唯さんから優くんになるきっかけは、心拍数が急激に上がった瞬間なんじゃないかと思います。
そして優くんから唯さんに戻るときは、胸が苦しくなって、発作のような症状が起きたとき。
その発作の原因まではまだ分かりませんが……」
流斗さんは、私と兄を順番に見つめる。
まるで「どう思いますか?」と問いかけてくるようなまなざしだった。
たしかに。私が優になるとき、毎回、お兄ちゃんと何かしら接触して、ドキドキしていた気がする。
……って、ちょっと待って。それって。
流斗さん。私が兄と触れ合ってドキドキしてるって、気づいてるってこと?
私、変身の状況しか話してないのに。
それでそう思ったってことは――私の気持ち、バレてる?
思わず目を見開き、流斗さんを凝視した。
すると流斗さんは、すべてをわかっているように、ふっと笑った。
この笑顔……ああ、やっぱり。全部見透かされてる気がする。
ひえ~。恥ずかしいやら、悔しいやら。
私は動揺を隠すように、ぎこちなく笑い返した。
……うん。深く考えるのはやめよう。
今はそれより、変身のことだ。
流斗さんの仮説は的を射ている。
変身するときの動機も、戻るときの発作も、彼の言う通りだった。
さすが流斗さん。名推理かも。
「おまえ、すごいな。さすが流斗、生徒会長様だな」
「それ、関係ないよ」
兄の軽口に、流斗さんが苦笑混じりに返す。
ふっと空気が和らぎ、私はそっと息を吐いた。
変身のきっかけが、少しでも見えてきた気がして――それが嬉しかった。
何もわからないより、ずっと心強い。
不安だった気持ちが、少し軽くなる。
きっと、流斗さんがいてくれたから。
そう思った、その瞬間だった。
