休み時間。
「よっ!」
兄が飛びきりの笑顔で教室に現れる。
私は呆れつつも、苦笑いを返した。
優の姿のままの私を心配してか、兄は休み時間のたびに教室まで様子を見に来る。
十分しかない短い休憩時間なのに、毎回訪ねてくるのは相当大変なはず。
「咲夜、そんなに毎回来なくても大丈夫だよ」
さりげなく断ってみるけれど、兄はまったく気にしていない。
「何言ってんだ。俺はおまえに会いたいから来てんの。いいだろ、別に」
うん、まあ、そうなんだけど……。
私は周囲の目を気にしながら、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
案の定、クラスでは兄のことが噂になり始めていた。
もしかして兄はゲイなのではないか、と。
唯のときにも教室まで来ていたけれど、それは妹だからまあ許容されていた。
けれど、優は従弟で、しかも男。
周囲の視線が妙に冷たく感じられる。
まあ、ある一定の女生徒からはなぜか喜ばれているみたいだけど。
兄はその噂を知っているのかいないのか。
たとえ知ったとしても、きっと気にしないだろうけど。
そういうことには動じないタイプだ。
けれど私は、兄がそんなふうに誤解されるのは嫌だった。
しばらくすると、時計をちらりと見た兄が名残惜しそうに立ちあがった。
「じゃあ、もう帰るな。また次の休み時間に来るから」
一方的にそう言い残し、さっさと教室を後にする。
その後ろ姿をそっと見守りながら、私は小さく息をついた。
まあ、本人が気にしていないのだから、私が気にしてもしかたないか。
そう思い直し、これ以上噂が広まらないことを祈った。
