兄を睨んだそのとき――

「あれ、南くん?」

 突然の声に、私はびくっと肩を震わせた。
 この声は……。

 恐る恐る振り向くと、そこには驚いた顔をした蘭が立っていた。

「そうよね? ……南くん。
 おはよう、偶然だね。クラスまで一緒に行っていい?」

 蘭はにこにこと微笑みながら、自然な足取りで私の隣に並んだ。

 ……昨日も思ったけれど、蘭はやっぱり優のこと、気に入っているのかな。
 通学路だっていつもは違うのに、今日はわざわざこっちに来た?
 もしかして、待ち伏せ……。

 いやいや、まさか。蘭に限ってそんなこと。
 あれだけ男子にモテても全然なびかなかった蘭だよ?
 そんなはず、ない……よね。

 そう思おうとするんだけど。

 蘭の瞳を見ていると、どうにも私の予想が当たっている気がしてならない。
 だって、その瞳は、まるで恋する乙女そのものだから。

 気づけば私は、左に兄、右に蘭に挟まれて歩いていた。
 その少し後ろでは、流斗さんが楽しそうにその様子を見守っている。

 みんな、私にとって大切で大好きな人たち。
 だから、側にいてくれるのは嬉しい。……けど。

 なんだか、視線が痛いのは気のせいだろうか。
 すごく注目されている気がする。

 そうはわかっていても、どうすることもできず、
 私は愛想笑いを浮かべながら登校するしかなかった。