仮の姿のまま、兄と並んで歩く通学路。

 朝の陽射しがまぶしくて、目を細める。
 制服の感触も、体の感覚も、すべてがまだしっくりこない。

 でも、それ以上に――
 これがいつまで続くのか分からない不安のほうが大きい。

「まあ、そう落ち込むなって。またすぐ戻るかもしれないだろ?」

 隣で兄がいつものように呑気そうな笑顔を向けてくる。
 その笑顔に、少しだけ気持ちが緩む。

 だけど……私は知っている。
 「戻るかもしれない」という言葉に、何の保証もないことを。
 そりゃ、すぐに元に戻ることだってあるかもしれない。
 でも、ずっとこのままかもしれない可能性だってゼロじゃない。

 何をきっかけに変身したり戻ったりするのか、まだわからないままなのだ。
 不安で仕方なかった。

 もし、また急に変身してしまったら。
 しかも、そのとき誰かと一緒だったらどうするの?

 胸の内で不安がぐるぐると渦を巻き、私は深くため息をついた。

「あれ? まだ優くんのままだったんですね」

 突然、背後から声がかかる。
 振り向くと、流斗さんが私の顔を覗き込んできた。

「あ、流斗さん。おはようございます」

 無理に笑顔を作って挨拶する私に、流斗さんはいつもの柔らかな笑みを返す。

「おはようございます。昨日はどうされたんですか?
 二人とも放課後いなくて、探しましたよ」

 そうだ、流斗さんは昨日の出来事を知らないんだった。

「悪い。流斗に知らせることができなくて。
 昨日、いきなり唯に戻っちゃってさ。俺が付き添って、先に帰ったんだ」

 兄が事情を説明する。

「ああ、そうだったんですね……で、また優くんに変身したと」

 流斗さんは何かを考え込むように、じっと私を見つめた。

「はは……。ほんと、せわしないですよね」

 不安な気持ちを悟られまいと、ぎこちない笑顔を浮かべる。

「それは大変でしたね。これからは、僕にも連絡してくれれば最大限手伝いますよ」

 穏やかな声音に、眩しいほどの笑顔。
 その優しさが、疲れた心にじんわりと染み渡っていく。

 な、なんてお優しい……。

「あ、ありがとうございますっ」

 嬉しさを隠しきれずお礼を伝えると、流斗さんの目がそっと私を捉える。
 静かなまなざしに、胸が高鳴った。