「あがったよ。唯もお風呂入りな」

 兄がリビングに入ってきて声をかける。
 私は何でもない顔で振り返り、笑顔を向けた。

「うん、そうするね……っ!」

 思わず声が詰まる。

 視界に飛び込んできたのは、兄の艶やかな肌。
 寝間着の上のボタンはすべて外され、上着を羽織っただけの無防備な姿だった。

 開いた隙間から覗く素肌に、目が釘付けになる。

 私が固まったまま見つめていると、兄は首をかしげながら近づいてくる。

「どうした? ぼーっとして」

 距離が縮まり、私は慌てて立ち上がった。

「な、なんでもない! さ、お風呂行こっかな」

 目線を逸らし、急いで歩き出したとき――

「きゃっ」

 兄の横を通り過ぎる際、体がわずかにぶつかってしまった。

「おっと」

 とっさに兄が私の体を抱きとめる。

「お前、ほんっとドジだな」

 支えられたまま、至近距離で兄と見つめ合う。
 触れ合う体、至近距離からのまなざし、微笑み。

 しかも、無防備な肌が目に入る。

 もう、どこを見たらいいのか分からない。

 心臓がドクドクと速く脈打つ。

 ひーっ、た、助けて!

 私はぎゅっと目をつむった。

「え? わあ! おいっ」

 兄が驚いたような声を上げる。

 え? なに、どうしたの?

 恐る恐る目を開けると、兄が目を大きく見開き、驚いたように私を見つめていた。

 まって、この反応は、まさか……。

 悪い予感が胸をよぎる。

「唯……残念」

 兄のそのひと言で、すべてを悟った。

 ――また、優になったんだと。