ひんやりとした朝の空気が、頬をかすめる。
通学路を早足で歩く中、兄がふと足を止めた。
「少し出遅れたな、急ぐぞ」
兄はそう言って、手を差し出した。
え、これって……?
戸惑っていると、兄が私の手をぐいっと奪う。
「バカ、手を繋ぐに決まってんだろ」
ニヤッと笑う兄に、胸が小さく跳ねた。
な、何よこの展開。ときめくじゃない。
「う、うん」
繋がれた手をぎゅっと握り返すと、兄は嬉しそうに微笑んだ。
そして私たちは、手を繋いだまま駆け出した。
学校が見えてきた頃、校門の前に立つ流斗さんの姿が目に入った。
にこにこと笑いながら、私たちに手を振っている。
「おはよう。相変わらず仲がいいね」
「おお! 流斗、おはよう」
「おはようございます」
兄が足を止め、私もつられるように立ち止まる。
息を整えていると、兄が早口で言った。
「あー、昼休み、屋上に集合な。話したいことがあるから」
言い終えると、ちらりとこちらを見た。
――ああ、そうか。変身のこと、ちゃんと話さないと。
私は小さく頷いた。
「え? 何、嬉しい報告? ふたりの惚気は聞きたくないよ」
わざとらしく肩をすくめて笑う流斗さん。
でもその冗談を、兄の真剣な声が一変させた。
「そんなんじゃねえ。大切な話だ」
珍しく強い口調に、流斗さんの表情が少しだけ引き締まる。
「ふーん、わかった」
「やばっ、遅刻する!」
兄が急に走り出し、私は強引に手を引かれる。
転びそうになりながら必死についていく。
ふと振り返ると、流斗さんがやさしく目を細め、こちらを見送っていた。
……流斗さん、ありがとう。そして、さようなら。
そんな思いを込めて、せいいっぱいの笑顔を返す。
流斗さんも察したように、にこりと笑った。
「なにへらへらしてんだ、行くぞ!」
兄はスピードを緩めることなく、ぐいっと私の手を引く。
――ほんと、強引なんだから。
ため息まじりに兄の背中を見つめる。
それでも、やっぱり愛おしいんだよなあ。
その勢いのまま教室まで走り抜け、どうにか遅刻は免れた。
けれど、私の息はもうすっかり上がっていた。
