そのとき、突然兄が叫んだ。
「おまえっ! よくもそんなことができたなあ。
もし唯に何かあったら、どうするつもりだったんだよ!」
兄は勢いよく男のもとへ駆け寄り、その胸ぐらを掴み上げた。
「ひいぃ、ご、ごめんなさい!
何かあればすぐに対処しようと思って、ずっと見張ってたんだっ!」
苦しそうに咳き込みながら、男が訴える。
見張ってたって……どういうこと?
まさか、ずっと私たちのことを――?
「おまえ、ずっと俺らのこと見てたのか?」
兄がさらに怒気を込めて問いただすと、男は必死に言い訳を始めた。
「いやいや、違うんだ!
何かあったらすぐに駆けつけて、解毒剤を渡すつもりだっただけで……!
決して、実験の経過を観察していたわけでは――」
そこまで言って、男が口を押さえた。
しまった、という顔。
兄の目が光る。
「……ほう。つまり、唯を実験対象として経過観察してたってことだな?
あっ!? てめえっ、人の妹に何してくれてんだ! 覚悟はできてんだろうな!」
怒りに駆られた兄が男を突き飛ばし、そのまま地面に押し倒す。
馬乗りになった体勢から、拳が振り上げられた。
――振り下ろされる、その寸前。
「ひっ! ま、待て。話を聞いてくれ。俺は、解毒剤を持ってるんだぞっ!」
悲鳴じみた叫びに、兄の拳がぴたりと止まった。
虫けらを見下ろすような冷たい目をした兄の口から、低く鋭い声がこぼれ落ちた。
「出せ。その薬……今すぐ出せ」
