クリスマス当日。
朝から、家の中は妙に浮き足立っていた。
台所では母が鼻歌まじりに料理中。
いい匂いが部屋中に広がっている。
部屋の片隅では、父が飾り付けに夢中になっていた。
この日のために有休まで取ったらしい。気合いの入り方がすごい。
「私も手伝おうか?」と声をかけてみたけれど、あっさり断られてしまった。
なんでよ……飾りくらいなら手伝えるのに。
ふとリビングを見ると、兄の姿が目に入った。
どこかそわそわしながら、ツリーの飾りをいじっている。
その真剣な横顔に、思わず見惚れてしまった。
それにしても、この家族はイベントごとになるとテンションが高い。
みんなそれぞれ楽しそうに作業していて、見ているだけでお腹いっぱいになる。
でも……こういうのも悪くないなって思う。
みんなが楽しそうにしていると、胸がぽかぽかしてくるから。
――そして数時間後。
登校すると、学校中もそわそわした空気に包まれていた。
今日はクリスマス。恋人たちにとっては特別な日。
みんながどこか浮かれていて、廊下の空気まで甘ったるい。
仲良く談笑する友達やカップルたちを横目に、私はうつむきながら歩いた。
……何も、進んでない。
あれから兄とは話せていないし、結局、気持ちもわからないまま。
流斗さんだって、あのとき「僕に任せて」って言ってたのに。
あれは、どういう意味だったんだろう。
はあ、と何度目かのため息をつきかけた、そのとき。
「唯! とうとう今日だね、頑張って!」
突然、背後からぎゅっと抱きつかれた。
振り向くと、蘭が満面の笑みで顔を覗き込んでくる。
「え? あ、ああ……うん」
私の沈んだ様子を察したように、蘭が短くため息をついた。
「あー……あのことね。
でもさ、一度決めたことだし。頑張って気持ち伝えてみなよ。
咲夜さんがどう思ってるかなんて、本人にしかわかんないし」
蘭にはすべて話してある。
兄が流斗さんとのことを応援すると言ったあの一件で、ずっと悩んでいることも。
そんな私を、蘭は変わらず励まし続けてくれていた。
彼女の存在が、どれほど力になっているか……。
きっと蘭は、気づいていないんだろうな。
「うん……わかってる。ありがとう、蘭。私、頑張る」
私が笑うと、蘭は力強くガッツポーズを見せる。
「その意気よ! 大丈夫、私がついてるから」
親友の励ましが、胸に沁みる。
私はもう一度、小さく頷いた。
……けれど、やっぱりまだ、胸の片隅には不安が残っていて。
それをどうしても、拭いきれずにいた。
