私はゆっくりと深く頷いた。
「うん。それでも、やっぱりお兄ちゃんのことが好き。
お父さんがどんな人だったかなんて、関係ない。
もちろん起こった出来事は、とても悲しいことだけど……。
それでも、お兄ちゃんを嫌う理由にはならないよ」
まっすぐに見つめ返すと、蘭が静かに口元をゆるめる。
「唯は強いなあ」
そんなふうに言われるなんて、思ってもみなかった。
「強くなんかないよ。ただ……やっぱり怖いよね」
「何が?」
「いや、もし逆の立場だったらって考えたの。
私だったら、やっぱり怖くて言えないなって」
その言葉に、蘭が優しく笑った。
「わかってるじゃん。それがわかってるなら、きっと大丈夫。
家族とのわだかまりもすぐになくなるよ。
咲夜さんの気持ちもはっきりしたことだし。あとは、唯が気持ちを伝えればいいだけ」
蘭はさらりと言ってくれるけど――
私は、そっと視線を落とした。
「そうなんだけど……やっぱり流斗さんのことを考えると、申し訳なくて」
「でも、ちゃんと話し合ったんでしょ? 理解してくれたんだよね?」
「うん……」
「だったら、いいじゃん。
自分の気持ちに嘘をつき続けるより、ずっといいよ。
流斗さんも、唯が幸せになるのが一番だって思ってるよ」
「……そう、だよね」
「それに、クリスマスまでは彼に尽くすんでしょ?
その間にいっぱい恩返しすればいいの! それだけで十分なんだから」
蘭の軽やかな声とは対照的に、私の気持ちはまだ少し沈んでいた。
頭ではわかっている。
でも、心が追いつくのには、もう少しかかりそうだった。
