これ以上、彼のことを傷つけられない。気持ちに嘘をつけない。
私には、流斗さんに伝えなきゃいけないことがある。
――覚悟を決めた。
「……流斗さんに、伝えないといけないことがあります」
そう告げた瞬間、空気が少しだけ張りつめた。
流斗さんの表情が、ほんのり陰る。
きっと、この人はもう気づいている。
それでも私は、ちゃんと自分の言葉で伝えたかった。
挫けそうになる心を奮い立たせる。
「私……お兄ちゃんのことが、好きです」
流斗さんの顔を見るのが怖くて、私は視線を落とした。
「流斗さんのことも、大好きです。
でも、その“好き”は……兄に向ける気持ちとは少し違っていて……」
一度言葉を止め、息を整える。
「正直言うと、兄のことを忘れるために、流斗さんと付き合っていました。
ごめんなさい」
誠実に、謝罪の気持ちを込め、私は流斗さんに向かって深く頭を下げた。
返事はない。けれど、真剣に耳を傾けてくれているのが伝わってくる。
「でも……付き合っているうちに、心から思ったんです。
『この人のこと、好きになれたらどれだけ幸せだろう』って……。
何度も、そう思いました。でも――」
私は目を閉じ、ひとつ静かに息を吐いた。
「やっぱり兄のことが好きで。
どんなに冷たくされても、嫌いになんてなれなくて。
むしろ、どんどん気になってしまって。
今回のことを知っても……それでも、私はお兄ちゃんが好きなんです。
もう、理屈じゃないんです」
気づけば、また涙が頬を伝っていた。
私は意を決して、ゆっくりと流斗さんを見上げる。
彼の真剣な眼差しと、私の視線がゆっくりと絡み合う。
「流斗さん……私、お兄ちゃんが好きです。
だから、流斗さんとは……付き合えません」
心が軋むように痛む。
けれど私は逃げずに、まっすぐに彼の目を見つめ続けた。
