しばらく泣き続け、ようやく涙が止まったころ。
私は流斗さんの胸から、そっと顔を上げた。
涙で濡れた彼の胸元を見つめたまま、ぽつりとこぼす。
「……ごめんなさい。服、濡らしちゃって」
「ああ、大丈夫ですよ。唯さんの涙なら大歓迎です」
その優しい声に、胸がじんわりと温かくなる。
「あの……理由、聞かないんですか?」
おそるおそる顔を上げ、流斗さんの目を見つめた。
柔らかなまなざしの奥に、真剣さが宿っている。
「……実は、だいたいのことは知っています。
以前、咲夜から相談されたことがあって――」
静かに、けれど誠実に語るその声は、彼の人柄そのものを映しているようだった。
「咲夜、自分の父親のこと、すごく悩んでたんです。
唯さんへの気持ちと、父の罪への責任感で、押しつぶされそうなくらいに」
流斗さんは長く息を吐き、申し訳なさそうに視線を落とす。
「黙っていて、ごめんなさい。でも……咲夜の気持ち、どうかわかってあげてください」
切実な眼差しを向けられ、私は目を逸らせずに見つめ返した。
そっか……流斗さんも知ってたんだ。
本当に、私だけが知らなかった。
兄のことを思うと、胸がきゅっと痛んだ。
もし自分が兄の立場だったら。親の立場だったら――。
きっと私も言えなかったと思う。
相手が大切であればあるほど、言えなくなる。
そんな簡単なこと、わかっていたはずなのに。
あまりの衝撃の事実に、気が動転して。
混乱して、兄にあんな酷い態度を取って……傷つけてしまった。
「唯さん。自分を責めてはいけませんよ」
ふいに、やさしい声が耳に届いた。
彼は穏やかに微笑む。
「ご両親も、咲夜も、あなたのことを大事に想ってのこと。
そして、あなたはちゃんと、その想いに誠心誠意向き合っている。
それだけで十分です」
月の光に照らされるその笑顔は、とてもあたたかかった。
本当に、この人は……どこまでも優しくて、お人よしで。
心にぬくもりが広がっていく。
