今は、両親とも顔を合わせたくないし、話す気にもなれない。
私は部屋にあったパーカーを羽織り、玄関に転がっていたスニーカーを無造作にひっかけると、そのまま家を飛び出した。
何も考えられない。足だけが勝手に動く。
夜風が冷たく、街灯の光がにじんで見えた。
通りを曲がったのか、まっすぐ歩いたのかすら覚えていない。
どれくらい歩いただろう。
気がつけば、近所の公園に立っていた。
夜の公園は、妙に静かで……不気味な雰囲気が漂う。
でも、不思議と怖いとは思わなかった。
街灯の明かりが闇夜を照らし、暗い空にはまんまるの月が浮かんでいる。
誰もいない。遠くの車の音や風のざわめきも、どこか遠くに感じられた。
いつもの私なら、こんな場所に一人でなんていられない。
でも、今は平気だった。何の感情も沸いてこない。
私は近くのベンチに腰を下ろした。
大きく息を吸い込んで、夜空を仰ぐ。
母の死の真相――私だけが知らなかった。
胸がじんじん痛む。
視界が滲み、一粒の涙が頬を伝っていった。
「はあ……」
大きく息を吐き出した、そのとき。
「唯さん!」
闇を裂くような大きな声が響いた。
街灯の下、息を切らせて走ってくる流斗さんの姿が見える。
「ると、さん?」
駆け寄ってきた彼が私の前で足を止める。
肩で息をしながら、ほっとしたように目を細めた。
「よかった……。まったく、女の子がこんな時間に、一人で危ないでしょう?」
そう言って、ふわりと優しく微笑む。
いつもの笑顔。
それにつられるように、私も少しだけ笑った。
「ふふっ、でも今の私は男です。だから大丈夫」
そう――さっき、優に変身してしまった。
