「もし、この気持ちを唯が知ったら……気持ち悪いって思われて、二度と笑いかけてもらえなくなるんじゃないかって。怖かったんだ。
だから無理にでも気持ちを押さえつけようとした。彼女を作れば忘れられるかもって思ったけど、無理だったよ」
兄が苦笑いする。その笑みがどこか寂しげに見えた。
思い返せば、兄には彼女が何人かいたけど、誰も長続きしなかった。
加奈さん以外、私は一度も会ったことがない。
……そうか、全部、私から気持ちを逸らすためだったんだ。
「加奈のことも、悪かったと思ってる。結果的に、利用したみたいになったからな。
でも、今回のこと。唯にあんなことしただろ。俺、どうしても許せなかった。
唯を傷つけるやつとなんて、もう一緒にいられないって思った。
それが別れた一番の理由だ」
ふっと、兄の顔に影が差す。
加奈さんを傷つけたことを悔やんでいるのが伝わってくる。
気づけば、兄がまっすぐ私を見ていた。
「キスの意味……もうわかるよな?」
その言葉に、胸が跳ねる。
わかる。ここまで言われれば、私でも。
でも、急すぎて。気持ちが追いつかない。
「そ、それは……えっと……」
口ごもる私に、兄がはっきりと告げる。
「俺は唯が好きだ。誰よりも、ずっと。
本当は流斗にだって渡したくない。他の誰のものにもなってほしくない」
トクン、トクン。
心臓の音が大きく響く。
夢みたい。こんな日が来るなんて。
こんな言葉を、兄から聞けるなんて――。
